零の旋律 | ナノ

V


「俺の心臓はそこにあるか?」
「ある」

 怖くて聞くのを後回しにしていた確信を遊月は問う。泉は即答する。

「……何だか即答されると複雑な心境が」
「はっ、俺がもったいぶる必要は何処にもないからな」

 闇以外何も感じさせないような人物は、まさに漆黒一族と呼ばれるだけのことはあると遊月は実感する。

「さらに言うならお前らの復讐相手もいるぞ」
「……だろうな」

 炬奈は頷く。だからこそこれまで遊月と行動を共にしていた。時間を共有するうちに利害関係や、目的が一致したから――それ以外の感情も抱いくようになっていたが。だからこそ、目的を果たした後は、此処に皆で戻ってくることを約束した。
 けれど当初の目的は自分たちの復讐相手に辿り着くこと。その為に遊月たちも利用していた。利用し利用されの関係だった。

「伊垣(いがき)って研究者以下数名だ。伊垣限定なら研究者ではないが」
「助かる」
「お前はあんまり俺に質問してこないよな」
「……私らだって全てお前らに甘えて復讐が出来るとは思っていないからな」

 自分たちの手で出来ることはやる。その為に今まで生きてきた。
 泉や律に頼ってしまえば容易なことだと知りながら、必要最低限以外避けてきた。

「それがいい。お前は貴族でありながら俺たちみたいな属性ではないからな」
「お前らが特殊なだけだ。汐と翆を巻き込んだらかわいそうってものだろう」
「はっ、御尤もだ」
「まぁ、汐は殆ど巻き込まれている側の人間だろうがな」
「あれは、ああいう性質だろうが。カイヤを放っておくことが出来ないな」
「それもそうだ」

 会話に置いてけぼりを食らっている遊月はどうやって話を戻そうか思案していたが、それは不要に終わる。

「会話が逸れています。戻して頂けますか?」

 唯乃は率直だった。

「あぁ、で他には」
「……榴華ってやつは何者だ?」

 単純な戦闘能力で見るなら、自分が今まで出会ってきた中でトップクラスだ。それなのに何処か飄々として憎めない。

「榴華ね。あいつは傷害罪で捕まったんだよ」
「……俺の率直過ぎる感想をいってもいいか?」
「あぁ」
「しょぼい」

 犯罪に優劣をつけたいわけではない。ただあの驚異的な戦闘能力を知っているからこそ、その罪が酷く不釣り合いな気がしてならない。それは遊月に限ったことではなく炬奈、朧埼、唯乃もだ。

「大切な人を傷つけた人が許せない。大切な人に罪を犯させた奴らが許せない。大切な人がいないならこの世界に留まる必要はない。けれど――殺せば大切な人が傷つく。自分の代わりに傷つく。だからこそ榴華は殺すことはしなかった」
「……成程な。これ以上はいい。そこは個人の領域。俺が勝手に見聞していいことじゃない」
「そうか。他には?」
「……特には」

 聞きたいことは一通り聞けた。他にも知りたいことはもっとあった。けれどこれ以上知ってしまうのは憚られた。


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