零の旋律 | ナノ

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「玖城泉(くじょう いずみ)だ」

 炬奈が誰であるかを名前のみで説明する。それ以上の説明は不要だ。
 ソファーは向き合うように二つ並び、その間にはテーブル。ソファーから斜めの位置に一人がけのソファーがある。
 炬奈、遊月、唯乃の順番で座り、向い合せには律と泉。一人掛けのソファーには朧埼が座る。

「律からの依頼だ。でお前らは何が知りたい?」

 ならば律が泉と取り会ったのかと遊月は思案する。遊月は鋭く泉を観察する。その鋭い視線を泉は歯牙にもかけない。

「……俺の心臓があるあの研究施設に入る方法は?」
「お前らカイヤに連れて行くように頼んだのだろ? なら問題ない。いくら高度な結界術と幻影があったとしてもカイヤが入れば無意味だ」
「あぁ、そうだ、一つ」

 泉の後に律が続ける。

「カイヤが罪人の牢獄に行く時に汐にもついて行ってもらうようにお願いしたから」
「汐?」

 聞き慣れない名前に首を傾げると炬奈が説明した。

「鳶祗家当主。鳶祗汐だ」
「あれ? 雅契と鳶祗って険悪な関係じゃなかったのか?」
「カイヤは汐を嫌っているが、汐は別段カイヤを嫌っていないから問題ない。それにしても律、根回しがいいな」

 律の方へ炬奈は視線を移す。

「だってカイヤが暴れて何かしでかされたら、こっちが困る。保険とストッパーとして汐にはいてもらわないとな」

 面倒事にならないため、予め先手を打っていた。

「成程。で遊月他には」

 炬奈が促す。

「あぁ……あの研究所は一体何なんだ?」
「銀色が作り上げた研究所だ。崩落の街は“失敗するべく作られた街”だ」
「どういうことだ?」

 失敗させるために街を態々作る必要が何処になる。時間も労力も資材も無駄になるだけ。

「失敗した街には誰も近寄らない。街は結界によって守られている……といっても崩落の街は微弱ながら結界が働き街の外よりは毒の効力が薄い。だからこそ比較的長時間滞在出来る。そして街としての設備がある程度残っているとしたら?」

 泉が何を言いたいのか理解できず、問いかけに答えない。

「つまり、態と街を作ろうとして失敗した。失敗した街に人は住めない。砂の毒も微弱ながら存在する。そんな場所にお前は住みたいと思うか?」

 そこで遊月は理解する。

「まさか!」
「そうだ、その通り。誰も滞在したいと思わない。故に人が寄りつかない場所が出来る。ある程度なら生活が出来る。そして失敗した街はそのうち誰からの記憶から薄れていく。丁度いい隠れ家になるだろ」

 もとより罪人達は街の外に好んで出ようとしない。誰も死にたくないからだ。

「だからこそ、研究が密かに続けられていた」
「そういうことだ。もっとも街を作り上げたのは銀色だが、その後は研究者たちの好きにさせているらしい」
「初歩的なことをきくようで悪いが銀色って誰だ」
「罪人の牢獄支配者銀髪のことだ」

 そこで納得する。銀色も銀髪も同じ銀の名称が入るし、そのようなことが出来るのは銀髪だけと遊月も思っていた。けれど銀髪で通っている彼の呼び名を態々銀色と色をつける道理が理解できなかった。
 だからこそ、銀色が銀髪だとすぐに理解出来なかった。

「……俺たちはそう呼んでいるんだ。気にするな」
「そうする」
「で研究者たちは色々と好き勝手にその施設を使っているんだ。研究者だから主に第三の街の罪人で構成される」
「成程。第三の街はそう言った奴らが多く住んでいるからな」
「あぁ。でまぁ研究成果を教えてもらえば後は好き勝手にやらせているんだよ」

 好き勝手にやらせる目的は何か、遊月は考えたが想い浮かばなかった。もとよりあの男のやることを理解しようとして理解出来るものではない。


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