零の旋律 | ナノ

T


「わかった。俺は俺の目的の品を取り戻す。そしてこの場所に戻って来る」
「戻って来るのは構いませんが此処は日鵺の邸宅ですよ? 主の家ではありません」
「げっ……そうだった」
「構わん。ご希望とあれば此処に済めばいい」

 炬奈が扉に背を預け、そう告げる。

「何時の間にいたのかわからなかった」
「それはお前が呆けていたからだろ」

 普段の遊月なら気付くものも、今の遊月では気がつかなかった。だからこそ炬奈が傍にいることにも気がつけなかった。

「で、どうする。全てが片付いた後お前らは此処に住むか?」
「だが、此処はお前の家だろ?」
「構わん。敷地面積なら問題も全くない」

 そう言われて遊月は首を回す。広い庭園、そして広い屋敷。総面積がどれくらいあるのか遊月には判断出来ない。是でも敷地が昔より減ったと言われて誰が信じるのだろうか、と言えるほど。

「じゃあお願いするかな」
「私からもお願いします」
「あぁ。なら私たちの目的を全てはたして、戻ってこよう」
「なら俺からもお願いが!」

 元気よく挙手する朧埼に三人は笑う。朧埼はバツが悪そうにした後

「一緒に暮らすことになったら唯乃の手料理食べる」
「えっ……!?」

 唯乃が二歩程後ずさりした。

「お前料理出来ないのか?」

 炬奈の疑惑の眼差し。

「いいえ、出来ないことはありませんが、その……」

 口籠る唯乃に、首を傾げる朧埼と炬奈。

「朧埼程……私は料理上手ではないので、朧埼の料理を食べた後だと気が引けます」
「あははっ。そりゃあ朧埼は料理上手だからな。しかし構わないだろ唯乃。私より上手なら問題がないさ」
「炬奈は料理が下手なのですか?」
「鍋を燃やしたことがある」
「それは料理ではありません」

 そもそもどうすれば鍋が燃えるのか、想像も出来なかった。

「じゃあ、部屋の中に入れ。これ以上此処にいても仕方ないだろう」
「あぁ」
「そうですね」
「うん」

 炬奈、朧埼、唯乃の順番で扉をくぐる。遊月は最後に千歳の前を眺める。決心を固める。
 ――俺は絶対俺の心臓を取り戻すから
 日鵺の屋敷の中に入る。


+++
 夜の八時ごろ呼び鈴がなる。

「誰だ?」

 炬奈は訪問者がわからず顔を顰めながら玄関に向かい扉を開ける。
 訪問者に炬奈は暫く扉を半開きにしたまま固まる。

「入れ」

 暫くして炬奈は二人の訪問者を屋敷内に招く。
 廊下を歩いて遊月達の元へ案内をする。案内しながらあの男は夜しか活動しなかったことを思い出す。夜しか活動しないのなら、夜にやってくるのが普通だ。
 深夜ではないのは、彼らなりの配慮かもしれない。

「遊月客だ」
「俺に?」

 ソファーに座り寛いでいた遊月は怪訝する。
 炬奈の後についてやってきた人物は二人。一人は見覚えがあった。ピンク帽子を室内でも被っている律だ。そしてもう一人は黒。漆黒の髪と瞳、闇に溶け込むような黒い服。その肌だけは異様に白かった。
 二人はそそくさと歩きソファーに座る。


- 201 -


[*前] | [次#]

TOP


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -