第八話:これからのこと 自宅へ帰宅すると遊月は未だ同じ場所に立ち続けていた。何時間そうしていたことか。炬奈は声をかけるか迷いそのままにする。朧埼も遊月に付き合い、此方は座っているがその場にいた。 花が色鮮やかに咲き誇り、それが空しさを強調させているようだった。 鮮やかに咲き誇っていても遊月の唯一の弟はもうこの世にいないのだから。 炬奈が通り過ぎたことにも遊月は気がつかない。朧埼の事を認識しているのかも怪しい状態だ。 室内に踏み入れ、ソファーに座る。ソファーの沈みに身をゆだねて目を瞑る。 「まだ、唯乃は帰宅していないのか」 律と何処に行ったのか見当はつかない。律と一緒ならば唯乃自身何かあるとは思えない。ならば目的を果たしているのだろうと、まどろみながら炬奈は考える。少し疲れた、休息しようと眠りにはいる。 三十分くらいたっただろうか、炬奈はソファーから身体を起こす。 現在時刻は朧埼に聞かなければわからない。外へ出ようとして炬奈は止めた。 そしてあるものを探す――。 夕刻、唯乃は帰宅する。 「……主」 遊月は未だにその場にいるまま。虚ろな瞳が見ている先は此処ではない。 朧埼は地面に座りながらうたた寝していた。朧埼の肩を叩いて起こす 「うっ」 「おはようございます」 「あ……ごめん唯乃。俺……寝てた」 「構いませんよ。今の今まで傍にいて下さって有難うございます」 にっこりと唯乃が微笑むと朧埼は照れて頬をかく。 「主、このままいてどうするつもりですか」 「……」 遊月からの返答はない。けれど唯乃は続ける。このままにしておくわけにはいかない。 「主は主の目的を果たべきです。その為に罪人の牢獄を脱出し、今此処にいるのでしょう? 主の目的を果たす為に誰だって利用してきたのでしょう。なら此処で足を止めているべきではありません」 「……」 「主、主が此処に何時までも留まっていて、現実は何か変るのですか?」 「わかっているさ、それくらい。けど頭ではわかっていても心では認めたくないんだ」 小声で、聞こえるか聞こえないかの境目で遊月は言葉を口にする。 「すぐに整理をするのは無理だとわかっています。けれど、私は主がこのままそこで立ち止まっているのを見ていたくはありません。もしも」 唯乃は悲しそうに顔を歪める。 けれど意を決して続きを口にする。 「主が死にたいと願うのなら、主が目的の品を取り戻した後、私が主を殺して上げます」 「――!?」 遊月が初めて唯乃の方を見る。 「ですから、主はただ目的の品を取り戻す為だけに全力を尽くして下さい。私は主のためなら何だってするのですから。仮に主が私に死ねというのなら私はこの命主に差し出しましょう」 静かに微笑む唯乃に、遊月は心の中にわだかまりが少しずつ音を立てて消えていくのが実感出来た。 [*前] | [次#] TOP |