V 「波場は、房見を助けたかったんだな。親友を」 「それだけではないでしょ。房見には家族がいた。こんな世界で珍しい家族ですよ。その家族を悲しませたくないって想いも少なからずはあったんでしょうね」 「なら、私らはいずれその家族に闇討ちされるかもな」 「……それは、元より覚悟の上。闇討ちは常日ごろからされる覚悟をしていないと、俺らは昔に死んでいる」 生きるために人を殺してきたのなら、生きるために人に殺されることも、当然存在する。表裏一体のように、切っても切り離せない。 自分が生き残るために、何処かで人を殺しているのならそれが直接的でも間接的でも。 「あぁ、そうだな」 殺伐とし、常に死と隣り合わせに歩いているからこそ、そう考える。 「俺たちは、何処まで行っても一般人と相いれることはないのでしょうね」 望んでも、その手が血濡れているのなら。相容れず、平行線をたどる。 「……帰るか」 これ以上この場に留まる必要はない。目的は果たした。 仮に政府にこのことが露見しても問題はなかった。露見したところで雅契が全てもみ消す。 そして犯罪組織である組織を政府が庇う必要もない。 「そうですね」 炬奈と槐は岐路につく。 炬奈は真っ直ぐ自宅に帰る気分にならず槐に続いて雅契の屋敷に足を踏み入れる。 見た目だけは立派な貴族の邸宅。中身は魑魅魍魎の世界。 「戻りました」 槐がそう言ってカイヤの自室をノックし、返事を待つことなく入る。 机の上で書類と格闘しているカイヤがいた。 「にゃに?」 「……カイヤさんまた書類を放置していたんすか」 「書類きらーい。そしたらこんなにたまっていたとか酷いよね?」 「自業自得」 きっぱりと槐は切り捨てる。 カイヤは頬を膨らませる。その動作が一々無邪気で年相応には、まして雅契の当主には見えない。 「むー。あ、で終わったのかい?」 「えぇ」 「炬奈も満足?」 「満足もそもそもそんなものはない。人を殺して満足するわけがないだろう」 「あははっ、炬奈ならそう言うね。まっそうだね」 何を言ったところで無駄。そうは思っていても炬奈は場合によっては苦言する。 「……」 「何、呆れたねぇ炬奈。そんなもの今さらだって思うのにー」 「何だか帰る気分にならないから此処に来たが、余計に悪化した」 最初からわかっていたことだというのに、どうしてこの場所に足を踏み入れたのか。 自問自答したくなる。 「そりゃそうでしょ、気分爽快になりましたって人いたら見てみたいわ」 「……そうだな」 「ね? あ槐もごくろーさま」 「その取ってつけたような、そして思いだしたようないい方で、ねぎらわれても嬉しくもなんともないんですが」 腕を組みながらため息一つ。槐は例えカイヤが当主だとしても敬いの気持ちは対して持ってない。術に関してのみ言えばそれは尊敬にも値するものだが、何分カイヤの性格が悪い。 「まぁ俺は用事終わったようなんで、雪城たちの所へ戻りますよ」 「うん、じゃあまたねー」 「俺にも仕事あるんで、早々何度も呼び出さないで下さいよ」 槐はそれを最後に扉の前で一礼してから部屋を出る。 「もう、本当につれないなぁ」 「お前と一緒に遊べば火遊びで済まないからな」 「誰も遊びに付き合ってっていっているわけじゃないよー。でも最近誰も付き合ってくれないから詰まらないんだよね。洋服とか買いにいきたいよ」 「お前は何処の乙女だ」 「雅契さんちのカイヤさん」 思わずイラつき炬奈はカイヤを一発殴る。 「いたいよ」 頭を両手で押さえながら痛い仕草をする。実際に炬奈は強く殴ったわけではないからたいして痛みはないのだが。 「で、仕事は終わりそうなのか?」 「あぁ、約束の日を気にしているんだね、大丈夫だよ〜」 「ならいい。私はそろそろ帰る」 「ん、さよーなら」 カイヤは片手でひらひらと手を振る。背を向けて扉を開け炬奈は雅契家を後にした。 [*前] | [次#] TOP |