零の旋律 | ナノ

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「一つ質問してもいいか」

 会話をしている間も斬撃は繰り広げられる。現状一対一の状態だ。他の部下の相手は全て槐が引き受けている。炬奈の邪魔をしないように。

「なんだ」
「何故、朧埼をすぐに狙おうとしないで、自ら難易度を急上昇させる真似をした」
「簡単だ、房見の容体が悪化して、一刻の猶予もなくなったとき日鵺の屋敷に日鵺朧埼はいなかった。その時お前らは組織を襲っていたからだ」
「なら組織に加勢し、そしてそのまま朧埼を誘拐すれば良かっただろう」

 朧埼を誘拐されるような真似をさせるつもりは毛頭ない。けれどそちらの方が雅契より幾分簡単だ。初級と上級の差がある勢いで。

「組織に赴くわけにはいかなかった。後悔しているよ、組織に赴きたくない、そんなくだらないプライドが俺の中にあったのだから」

 あの時、決死の覚悟で雅契を襲ったように、同様に組織に赴いていれば良かったと。

「……後悔先に立たずか」
「あぁ、そう思った、何度も何度も何度も」
「雅契を襲ったのは」
「虎穴に入らずんば虎児を得ずということだ」
「……そうか、なら私はもう何も言えないな」
「もとより何かを言ってもらうつもりもない」

 勝敗がつくだけ。槍を俊敏に振るう。間合いを常に調節して、不利にならない距離をとる。獲物は炬奈の方が長い、けれど相手の方が小回りはきく。一瞬の隙をつくるわけにはいかない。それが決着の合図になる。後方では悲鳴はない。ただ倒れていく音だけが響く。槐の術による攻撃故、悲鳴を上げる時間すら与えない。

「結局は相容れぬか」
「もとより我らは敵同士でしかない」

 炬奈は槍を振るう。波場も剣を振るう。槍と剣がぶつかり合い金属音を奏でる。
 体力面で炬奈は疲れを感じ取っていた。怱々に決着をつける必要がある。
 炬奈は波場に突っ込む。波場の目前で屈み槍を突き刺そうとした。しかし波場は剣を上に振り上げる力で槍の柄に剣を当てる。
 その勢いに炬奈の握力は耐え切れず槍が後方に飛ぶ。
 炬奈は屈んだままホルスターに手をかけ、そして拳銃を取り出した。
 狙いを定めることなく数発連射する。この距離なら外すことはない。
 案の定銃弾は全発波場に被弾する。波場は衝撃と共に後ろに倒れる。

「ははは、拳銃とは予想外だ」
「卑怯とは言わせないぞ」
「言うわけないだろう、戦いなど全て卑怯でしかないのだから」

 波場に被弾した銃弾はすでに致命傷。血は留まることを知らない。
 止めを刺す必要はない。
 波場の視線は既に炬奈に向いていないのだから。ただ先に逝ってしまった房見を探すように視線が泳いでいた。おぼろげな意識の中でしっかりと房見を見据え――力尽きた。
 終わった。炬奈は一息つく。汗だくだ。もとより長期決戦するには向かない体力と力しかない。早期で決着をつける必要があった。
 炬奈は槐の方を向く。槐はすでに片付け終わっていたのだろう、部下は全て倒れ伏している。槐自身怪我の一つもなく無傷だ。槐に近づけなければ、部下に勝ち目はなかった。

「お疲れ様です、炬奈さん」
「あぁ。余り後味のいいものではないがな」
「戦いは、そのようなもんですよ。後味のいいものなど――ないでしょ」
「それもそうか」

 炬奈は荒い息を整える。


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