零の旋律 | ナノ

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「俺が道徳がどうのこうのというわけねぇだろ。俺は人形をどのようにして作っていようとベースが何であろうとそんなものに興味はない。ただ、俺たちが目的を達成するための弊害になる可能性があるのなら、予め潰しておくだけ、だ」
「はははは。愉快愉快、不愉快過ぎるわ。そんなお前に私たちの人形計画を潰されてたまるものか」
「わかったよ」
「何がだ?」
「なら、死霊使いの術、お披露目してやろうじゃないか」

 律は左腕の服を捲る――、そこから現れるのは何かの模様を示した紋様。
 異様な光を放つ。
 そして――。

 全てが終わったころ、唯乃は目の前の現実が信じられなかった。何か悪い夢であることを祈るばかり。けれど
 何度再確認しようと。目の前に映る光景は変らない。

「……何者。ですか」

 ようやっとそれだけを絞り出す。目の前に倒れ伏すのは人形と研究員、自分と律を除いた全ての人。
 全員が絶命している。
 戦慄する。彼の術を目の当たりにして、正気を保っていられる自分に拍手がしたい程に。そしてそうやって強がっていなければいけない自分を嫌悪する。

「志澄律、って言ったけれど?」
「それを聞いているのではありません」
「この術が非道で、人道に反しているとかそんなことを?」

 この男に何を言ったところで何一つ心に響くことはない。それを否応がなく実感してしまう。
 そしてそれをわかってしまう自分自身に嫌になる。

「貴方には何を言ったところで無意味でしょう」
「そりゃ。そうだろ。まぁどっちにしろお前の目的は達成できたからいんじゃねぇか? いや、違うか。お前の目的はお前が死ぬまで達成されないか」
「何処まで見透かせば気が済むのか測りかねますが」
「お前を変えたのは、嘗ての研究所を滅ぼした後だろ」

 滅ぼす前は、現状から脱出したかった。だからこそ同じ境遇を持つ人形と一緒に外に飛び出した。檻を物壊して。けれど、今はその考えはない。この計画は表に出てはいけないもの、存在してはいけないもの。

「……えぇ。でも私にとって私の目的は二の次でしかありませんから」

 全ては主に捧げる。人形である自分は死ぬまで、変ることはない。

「一途だな」
「貴方も一途でしょ? 私が主に恋愛感情を抱かないように、貴方も貴方の主に対して一途」
「あぁ……そうだな」

 世界に映る人は限られた人。それ以外の人がどうなろうと律の世界の外の出来ごとだった。

「私が何を優先しても主の目的を叶えたいと思うのと、貴方は一緒です」
「はっ。けれどお前の主は随分可愛らしい目的だと思うけれどな」
「そこが私と貴方の決定的な相違点ですよ。貴方の目的が何かは存じませんが、碌でもないってことくらいわかっています。それこそ、貴方を殺せば多くの人が救われる」

 長期間滞在していたわけではない。唯乃自身、罪人の牢獄に生きる罪人たちと接して来た。中でも群を抜いて狂っていたのは最果ての街支配者梓。けれど、そんな罪人達とはまた違った、そして同種の狂気を律は秘めている。それを隠すことなく。


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