零の旋律 | ナノ

V


「偶然の産物でしか、可能性として零に近い偶々生まれた唯乃沙羅を同じように作ることは……何百年やったところで、お前らの技術では不可能だ」
「私たち最高技術者が勢力を尽くして作った作品だ。お前如き素人に我ら玄人を侮辱される筋合いはない」

 唯乃は会話の外で耳を澄ます。是は自分と藤来の会話ではない。

「素人、ね。そもそも専門分野の研究者が足りないんだよ……」

 律はため息交じりに言う。元々滅ぼせばいいだけ、例え藤来の態度が高慢だろうと、人形が虚ろな瞳をしていようと、律にとっては関係ない。唯乃がどのような表情で此方を見ていようとも。何も。律の心を動かす材料にはなりえない。

「面倒な輩は怱々に片付けるに限るか」

 これ以上会話をつづけた処で、時間を無駄にすることはあっても有益なものは手に入らない。律はそう判断する。すると今まで何も握られていなかった手には大鎌がいつの間にか握られていた。
 異様な黒光りが、律の雰囲気に合致しているようだった――。

「なら、私も私たちの人形を使って邪魔ものは排除するだけだ」

 再び殺れ、と命令の音が響く。それに迅速に人形たちは反応して律と唯乃に向かってくる。

「私たちに足りないモノなどない。時間をかければ完成するに決まっているのさ」
「……下らねぇ」

 律は大鎌で斬り捨てる。唯乃も髪の毛、身体を武器へ変質させて戦う。人形たちはあっという間に一ケタ代に削られてしまった。
 流石に藤来の後で傍観していた研究者たちも慌てる。いくら唯乃が最高傑作だったとしても、此処までの戦力差があるとは到底思っていなかったし、人形たちは唯乃のデーターをベースに製作していた。

「うろたえるな」

 同様を肌で感じ取った藤来は研究者たちに一喝する。

「……そこのピンク帽子」
「俺か?」
「お前以外にピンク帽子を被っている者はこの場にいない」
「そりゃそうだ」
「そしてお前以上にピンク帽子を不気味に被っている者もいない」
「……そりゃそうかもな」

 律は微笑する。何処か歪で歪んだそれを。

「お前の名前は」
「……」

 律は一瞬名乗るか名乗らないか思案する。

「志澄律(しずみ りつ)」

 けれど相手にとって打撃を与えるのなら名前を名乗った方が効率的、そう判断し名乗る。
 案の定、研究員たちに動揺が広がる。それは藤来も同様だ。そこで初めて焦りの意が現れた。

「し、志澄だと!?」
「あぁ、そうさ。死霊使い志澄一族当主、志澄律」
「……そうか、死霊使いの一族であれば、人形に関して必要以上の知識を保有していても、違和感はあるまいな。だが、お前に道徳がどうのこうのと言われる筋合いはないぞ?」
「道徳、ねぇ」

 邪悪な笑みを浮かべ、律は続ける。


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