零の旋律 | ナノ

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 嘗て唯乃はそれがいやで、ただ身勝手な理由で作りだした人の呪縛から逃れるために、身勝手な理由で研究所を破壊した。
 けれど、身勝手で思いこみでもなんでも、唯乃は人形が何も知らずに殺戮を強要され続けるくらいなら殺し、殺した罪は自らが背負い進むと決断している。

「人形計画はあってはならないものです」
「あってはならないか、それはそれで意味のないことだ、何れ必要となる」
「何れ必要となるとは、どういった意味で」

 唯乃は軽やかに動き、人形たちの攻撃を優雅に避ける。そして避けると同時に髪の毛で人形たちを、なるべく苦しませないように殺す。
 藤来と会話をしながら戦う余裕が唯乃にはまだあった。

「あの姉弟が何かをしでかしてからでは遅い。その前に自らの駒を増やす必要があるのだ」
「その姉弟とは?」
「化け物さ」

 怒りと憎しみ、そして冷笑、侮蔑が交じり吐き捨てる藤来に唯乃はいい気がしなかった。昔から藤来はそう言った男だ。だが、しかし今回に限り藤来に同意する言葉が唯乃の耳に入る。

「同意してやるよ。けれど、根底にある原因はあいつらではないと思うがな」

 律は人形たちの攻撃を軽々と――唯乃以上の身軽さで交わす。

「お前は誰だ?」

 藤来はそこで初めて律の存在に気がついたように目を丸くしている。

「……今まで俺は蚊帳の外かよ」

 すねたように吐き捨ててから、藤来の方に向く。人形たちからの攻撃は続くかと思われたが、藤来の指示で動きが泊る。好戦的な瞳で律を睨みつける。けれど何処かそれは虚ろで、睨むつけられたとすらともすれば感じないだろう。

「お前は誰だ? 私はお前など知らぬ」
「双方が知っている人しかこの地に来ない、なんて思わない方がいい。唯乃を誘ったのは俺だ」
「では、お前は何者だ? この場所は極一部の研究員たちしか知らないはず」
「その研究員を吐かせることなど容易いことだろ」

 視線が鋭くなる。

「……」

 律は自分で入手できる情報に関しては泉を頼らない。自分の足で動き行動し、そして情報を入手する。しかし泉とは当然入手の仕方が違う。以前呆れて泉は律に対していった。お前がわざわざ自分で動かなくても情報くらいやるよ、と。それは律の情報の集める手段を知っていたから。

「まぁ場所も情報も入手したことだし、そのまま放置しておくと人形は後々面倒なことになる」
「面倒なことか、是は危機管理の薄い奴らが最後に頼る手段さ、今から算段しておかないと何時の日か何も出来ず、なされるがままに死ぬゆく」
「何時の日か、ね」
「何かお前は知っているのか?」

 高慢な態度のまま、藤来は問う。

「あぁ、知っているさ。お前らは所詮上辺だけの情報しか与えられていない」
「……なんだと?」
「意味がないんだよ、唯乃沙羅程の人形を自在に作れなければ、この人形たちに期待するのは無謀だ」
「無謀だと? この私たちの最高傑作が」

 声高に叫ぶ声を、耳触りだと言わんばかりに律は顔を顰める。


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