零の旋律 | ナノ

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「しかし何のベースもなく人形を作ることは至極困難を極めた。その時発案されたのが死んだ人間を利用する形で、つまりベースを作り人形を作ることに着手した。それはある一定の成果を出すことに成功する。けれど」
「けれど人をベースにした人形では感情が付きまとってきた。余計な感情があれば、完璧な駒とは成りえない」

 人をベースにしたからこそ、人が持っている感情を人形は持って作られた。
 それでは成功とは言えない。さらなる研究がつづけられた。

「研究は次の段階に入る。ベースには問題がない、だから感情を消し去り命令を聴くだけのマリオネットを、そして驚異的な戦闘能力を生みだすことに」
「そうして、私たち人形は作られた」
「けれど、その人形計画も失敗に終わる。成功作だと喜んでいた人形に実は感情があった。感情があり、怜悧な人形は密かに反旗を翻す機会を伺い、その機会が訪れるまでは政府従順な存在であり続けた」

 その過程にも数多くの人形が作られた。大半は感情を持っていた。けれどそれは欠落した感情。これ以上研究を続けるより、欠落した感情を持つ人形たちを教育した方がいいと上層部が判断し、人形の教育が始まった。そして事件は起こる――。

「そして、人形は反旗を翻した。政府から失敗作だと判断された人形たちを逃がし、自身は人形がこれ以上作られないように徹底的に施設と研究員を殺した」
「えぇ、その通りです。よくご存じですね」

 政府でも機密事項扱いの内容を、律はほぼ全容を知っている。

「まぁ、この辺は泉から聞いたしな」
「泉……情報屋ですか」
「あぁ。そしてお前はその後遊月音音と出会ったんだろ」
「えぇ」

 情報屋に対して唯乃は興味が沸く。

「さて、そろそろ敵さん本拠地だ」

 そういったのとほぼ同時に、否、律が見計らったのと同時に二人を囲むようにぞろぞろやってくる。
 唯乃もその気配には当然気が付いていた。囲まれるのを唯乃は待っていた。
 一気に片付けられるから――。

「えぇ」

 唯乃は髪の毛を変化させる。鋭く、鋭利に。
 虚ろな瞳を持つ人形たちはざっと見て五十人。
 それと白衣を着た研究者が十五人。
 全員でお出ましをしてくれたのだろうか、そうならば有難いと唯乃は思う。

「……まさか、お前は唯乃沙羅か?」

 研究員の中でも階級が上そうな――階級紋章を白衣と一緒につけている四十代の男性が声をかける。それには亡霊を見るような、驚きがある。

「えぇ。また下らない実験を始めているという噂を聞きましたので、今度こそは全てを抹消しにいきました。藤来(ふじき)先生。まさか生きているとは思いませんが」
「私は諦めるわけにはいかないのでな」
「全く、下らないです」
「……そうか。なら殺せ」

 白衣の――藤来は、命令する。命令一つで人形たちは動く。そう教育されているから。感情も個人の意思も自由もない。ただ、言われたことをなすだけの殺戮人形。


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