零の旋律 | ナノ

第六話人形の研究


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 唯乃と律は南にある街へ到着していた。
 唯乃は普通に歩くより早いと、不本意ながら髪の毛で翼を作り、律を掴み、空を飛んだ。

「空の旅はいかがでしたか」

 そのお蔭で本来かかる時間の半分以下で到着することが出来た。

「あぁ、いいものだな」
「本当にそう思っています?」
「さぁな」

 明確には答えず律は歩き出す。この街は工業が盛んな街で、あちらこちらに工場がある。

「……工場の街であれば、人形の隠れ蓑には丁度いいですね」
「まぁ別に工場でやっているわけではないだろう。どちらかと言うと、研究施設って場所の方が」
「変わりませんよ」

 断言する。唯乃は街全体を眺めるように、空を見上げ東西南北を見る。空気が少し悪い。工場の影響だろうか。
 しかし工場とは違う雰囲気を醸している白い建物も数件立ち並ぶ。住宅地は殆どない。
 此処は工場が、そして裏では研究が盛んな場所。
 当然合法なものもあれば、非合法のものもある。

「そうか?」
「貴方は、研究者でしたっけ?」

 炬奈から聞いた話では、志澄家は死霊使いと恐れられる一族。その本分は玖城家の騎士。
 何故死霊使いと言われるかは、わからない。炬奈は口を積むんで決して話そうとはしなかった。知らなければいいこともある。これ以上貴族の闇には踏み込まない方がいい、そう言って。

「んーまぁ一応。白衣も着るよ」
「研究者イコール白衣というイメージは別段私は抱いておりませんよ」
「定番だろ」
「その辺に関しては否定しませんが」

 しかし律が白衣を着ても闇医者かその辺がいいところだ。

「まぁやるのは大抵死体を扱うことが多いが」
「一つ、いいですか?」
「なんだ」
「貴方は悪鬼羅刹のような人ですね」
「……魔物かよ、俺は」
「強ち間違いではないと思いますよ」

 その言葉に律は苦笑いをする。此処まではっきりと物を言ってくる人は珍しい。普段の律の立場もあるが、律自身の性格が相まって率直に自分の感想を言ってくる人は殆どいなかった。
 それこそ気心の知れた相手以外はいないに等しい。

「あのさ、唯乃は俺に殺されるとか思わないの?」
「いいえ。私は易々と殺されるつもりもありませんし、貴方が私を利用しようとしている限りは、利用価値がある存在を殺して貴方自身を不利益に自ら招くとも思っていません」
「成程、その通りだな」

 実際に律も唯乃を殺すとなれば、容易ではないと感じていた。何せ唯乃は最大の成功作にして最大の失敗作、政府が作り上げた殺戮兵器なのだから。

「貴方は、何処まで人形について知っているのですか」
「政府が自分たちに都合のいい駒を、命令だけをきく従属が欲しくなったとこから始まった」

 律は本を読みあげるかのように、語り始める。


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