U 「全くだ」 興味も感心も律はない。 「話が終わりなら俺は唯乃と一緒に人形施設に行ってくるが」 「構わない。唯乃、律には気をつけろよ」 「えぇ、御心配には及びません」 「俺の心配はねぇのかよ」 「お前を心配するだけ浪費だ」 あっさり切り捨てる炬奈の態度に、律は苦笑する。 其々立ち上がり目的を達成するために動く。 罪人の牢獄に再び赴く前に――。 「じゃあ、行くか」 炬奈も玄関までは目的が一緒だ。律の屋敷に、魑魅魍魎といっても過言じゃない場所に長々と滞在するつもりはさらさらない。用事が済んだなら退散するに限る。 屋敷の外に出てから、炬奈は唯乃と律と別れる。 一旦朧埼に暫く別行動する胸を伝えるため、炬奈は一時的に帰宅する。 遊月は未だに立ち止まったままだ。朧埼の元へ足音を極力立てずに近づいて耳元で喋る。朧埼もその場の雰囲気を読みとり、頷く。 炬奈は遊月のことを朧埼に任せて雅契の屋敷に足を運ぶ。 カイヤへ取り次いで貰う。屋敷内に招かれることはなく、カイヤが外に出てきた。 「どうしたの? 約束の日までまだあると思うんだけど」 睡眠不足なのか、カイヤは眠そうだった。 「いや、お前が波場毅一の一派に対して報復しようとしていると聞いたからな。波場の元まで私も同行したいと思ったんだ」 「あー、成程。朧埼を誘拐しようと企んでいたからかい?」 「お見通しか。その通りだ」 カイヤも律も情報屋ではないのに、朧埼の誘拐を企んでいた陰謀に気が付いていたのか炬奈は多少疑問を抱くも、それを追求することはない。深く踏み込んではいけないから――。そう警鐘が心の中で響く。 「槐に任せたんだけど、行くなら槐と一緒に行って。僕は別のことに忙しいから」 「槐(えんじゅ)か、わかった。槐は何処にいる?」 「もうすぐ此処に来ると思うよ。ナイスタイミングだよね、炬奈がきたのは」 「そうか好都合だ」 もしかしなくとも律の計らいだろうかと勘繰る。けれどその考えをすぐさま切り捨てる。 律は他人に対して善意で親切にすることはないのだから。 それこそ律が善意で親切にすることがあれば、明日は槍が降るどころでは済まないと炬奈は見ている。 「……何故炬奈さんが?」 「ちょっと僕にはあいさつなし!?」 そこに槐がやって来る。少し癖のある髪の毛は肩付近まである。赤い瞳が炬奈を不思議そうに見ている。 フリルがところどころにある服を着て、腰にはホルスターを装備している。年は十代後半。 「……カイヤ様が何故外にいるんでしたっけか」 「うわーん。槐が僕に対して冷たい! それでも分家の人間かっ!」 本気で怒っているわけでも悲しんでいるわけでもない。ただの戯れとして楽しんでいるだけだ。 「分家の人間ですねぇ。正真正銘。でもカイヤ様に対して親切にする必要はなさそうだし」 「なら、今すぐその様付けとりなよ」 「とったらとったで分家の連中が煩いから」 分家が黙ったら、槐はすぐさまカイヤを呼び捨てにしたが、分家が本家に対して必要以上に気を使っている以上、それはあり得ないだろう。最も分家の人間でも、カイヤを呼び捨てにする人物がいることを槐は知っているが。 「わかっているよー。まぁいいや、炬奈が君と同行したいって、いっているんだ」 「別に構いませんよ」 「んじゃ、宜しく」 買い物を頼むノリなカイヤに槐は密かにため息一つ。 [*前] | [次#] TOP |