第五話:二つの目的 律は遊月に対して今回の出来事を何でもなかったように切り捨てるに違いない、と唯乃は憶断していた。 「何、炬奈がわざわざ此処まで来なくても、俺からそっちにいったのに」 「そうだと思ったが、お前の無神経な物言いを今は聞きたくない奴もいるのだ。こっちで先に手っ取り早く終わらせようとしただけだ」 「成程。遊月音音を庇ったわけか」 「その物言いが他者を傷つけると理解した上で、お前は変えようとしないのだから、全く性質が悪いとしかいいようがないよな」 「その俺たちと対等に話せるのだから、君も中々神経が図太いと思うけどね」 嘲笑うかのような律の口調に唯乃は怒りさえ覚える。けれど炬奈は怒りすら感じない。彼らに何を言ったところで無駄だと、心の底から染みついているから。彼らに対して怒りは昔に捨てた。但し全てに関して怒りを覚えないわけではない。 「それは褒め言葉として受け取っておこう。此処で立ち話もなんだと思うのだが」 誰に知られるともわからない。否、唯乃と律が入れば誰かがきたことなどすぐに察知するだろう。 炬奈の思惑を知ってか知らずか律は屋敷に入るように促す。 「で、実質的には組織は壊滅状態になったはずだが、ご満足なのだろうか?」 律の自室にそのまま案内される。少し薄暗い部屋。生理整頓された部屋は少しもの寂しく感じる。 「まぁ満足と言えば満足だね、一部幹部たちはまだ生き残っているけれど重要なのは組織という隠れ家を潰したかっただけだから」 「隠れ家?」 その言葉に違和感を覚える。 「隠れ蓑って言ってもいいけど。まぁ俺としては組織という存在が滅べば、別に人が生きていようがいまいがどうでもいいってことだ」 「深く追求するとろくなことにならないだろうから此処で止めておこう」 彼らの真意を追求すれば、必ず碌なことにならない。それを何度も実感しているからこそ、引き際を炬奈は見極める。 「一つ伺いたいのですが宜しいですか?」 唯乃がそこで口を挟む。続けてと律が促すとそのまま続きを話し始める。 「人形についてです」 「あぁ、あれか」 「あれ、で片付けられる程度のことなのですね。貴方にとっては」 「いいや、あれで片付けて支障がないわけがない。成功しないとわかっていても、だ。 お前みたいなのが何対も万が一に現れたら面倒だしな」 「つまり面倒で片付けられる程度なのですね」 どちらにしても、彼にとっては些細な問題でしかない。 「まぁその辺と受け取って貰っても構わない」 「そうですか。話を続けます。その研究は何処でやっていますか?」 「何、興味があるの?」 「……正直人形を放置しておきたいとは、最初から思っていません。けれど私にとって 主の目的こそが最優先事項。けれど今の主の精神状態は芳しくありません。残りの時間は精神を癒すことに費やすべきです。そうなれば私のやるべきことはありません。ならば罪人の牢獄に赴く前に片付けておこう、そう思ったのですよ」 再び繰り返される人形に終止符を打つために。あの日、人形を終わらせたと思っていた。もう二度と人形は作られないと、けれど数年の時を経て再び人形を作りだすというのなら、唯乃は再び牙を向く。 自分たちは作りだされていい存在ではない。 [*前] | [次#] TOP |