W 「千歳が例え誰から追われようとも俺は全力でお前を守る」 「……貴方は……」 言葉が出てこない。伝えたい気持ちはあるのに。ふと目頭が熱くなるのを千歳は感じた。 涙など、感情など当に捨てたかったのに。捨てることは結局出来なくて心の底に残っていた。 「俺はあの時、ずっと後悔していた。何故千歳と一緒に生きる道を選ばなかったのかって」 離れ離れになった時、遊月は父親と一緒に生きる道を選んだ。 「あの時、見捨てて御免。守ることが出来なくて御免」 だから、今度こそ守らせて。 「あ、貴方は……っ!?」 突然の衝撃が千歳を襲う。 ふかぶかと身体を貫く銃弾。一面を散らす血痕。千歳は地面に倒れかける――寸前で遊月が抱きかかえる。 力を亡くして千歳は遊月にもたれかかる。 背中に手をまわした手を遊月は眺める。月明かりが照らし、よくみえるそれは――真っ赤。 「一体何が!?」 遊月が周辺の状況を確認する前に、上から何かが降って来る。それは鈍い音と歪な音を立てて地面に墜落する。 よくよく見るまでもなく、それは人間だった。 地面に墜落した衝撃で血痕が広がる。炬奈は駆け寄り状態を確認しようとしたがするまでもなく、たった今絶命したばかりだということが感覚でわかった。 「一体どういうことだ?」 現状に朧埼はいない。千歳の怪我を治癒することが出来るものはいない。 「……遊月。この場は任せた」 もし他に襲撃があったとして、対処はどうする――と一瞬だけ悩んだが、すぐに遊月なら大丈夫だ、一人でも千歳を守りきれると判断し、炬奈は自分にするべきことをする。それは朧埼を連れてくること。一刻も早く朧埼の力で治癒しなければ千歳は助からない。 「ちぃ」 炬奈は走り出す。炬奈にとって夜も昼も変わらない。 [*前] | [次#] TOP |