零の旋律 | ナノ

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 あわただしく組織内部は蠢く。侵入者があったことなど数えるだけしかない。それも全て始末して来た。けれど今回の侵入者は今までと実力が桁違いだった。表に出した組織の人間はあらかたやられてしまった。
 次の一手を作る必要がある。上層部は至急集まり緊急会議と指令を出している。
 そのあわただしい様子に関与することなく、静香は一人自室の窓際に座り、月を眺めていた。ふと視線を下ろすと見知った影が二つ映る。

「来たか」

 眼鏡は白いテーブルの上に置いてある。眼を細めることなく、炬奈と遊月の姿を確認する。静香の自室がある場所は組織の裏側に近い場所だった。だからこそ、炬奈と遊月の姿を確認できた。
 他のものは知らないだろう。このあわただしい現状の中で静香同様に窓をのんびり眺めている者もいないだろうし。
 部屋の電気はつけてない。それゆえ明りは月の光のみ。電気をつければ組織の人間に中に人がいることがばれてしまう。それを危惧してだ。気配は極力消している。

「……さて、そろそろ俺も動くか」

 椅子から立ち上がり、ベッドの傍に立てかけてある狙撃銃に手をかける。
 目的を達成するための手段として、この組織に身を置いた。


+++
 千歳は待っていた。静香に指定された場所で。
 眼前に姿を現したのは静香ではなく遊月と炬奈の二名。

「……静香め、僕をだましたな」

 静香は最初から来るなら裏側からだと確信していた。だからこそ千歳とネオを対面させるために千歳に嘘をいい、待たせていた。
 その思惑は見事成功し、こうして二人は姿を合わせた。

「千歳。最後にもう一度、組織を捨てて俺たちと一緒に暮さないか?」
「……っ、断るよ。貴方が今までどう生きてきたのか僕は知らない。けれど同様に貴方も僕のことを知らない。和解するには遅いんだよ」

 拒絶されても、遊月は近づく。炬奈は二人から少し離れた場所で足を止めた。
 此処から先は二人の兄弟がやること、部外者である自分が首を突っ込む必要はないと。首を突っ込むのは本当にどうしようもなく捻じれた時だけ。
 千歳はこれ以上近づくなと遊月に威嚇射撃を一発放つが遊月はそれを避けない。
 最初から威嚇射撃だと見きっていたのか、当たっても構わなかったのか。恐らくは後者だ。

「千歳。俺は何度でも、何度でも言う。一緒に暮さないか?」

 僅かに千歳の手がぶれる。必死で惹かれる心を頭が拒絶しているようだった。
 今まで生きてきたものを否定されたくはない。仮に組織を抜けた処で安寧な生活は待っていない。
 遊月が組織を壊滅状態にさせられると思ってもいない。


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