零の旋律 | ナノ

T


 炬奈と遊月は組織から少し離れた裏側の場所で待機していた。唯乃が出来る限り人を引き付け、人数を減らす。その隙に侵入する、そういった手筈。
 銃声が反対側にいても聞こえてくる。それは鳴りやまない。騒音となる。
 唯乃が敵をひきつけてくれていることを音で確認する。

「流石唯乃だな」

 炬奈は感心する。銃声が鳴りやまない。否、徐々に音は小さくなっていく。それは唯乃が敵を片付けているに他ならない。唯乃がやられたから、銃声が弱くなったのでは決してない。
 唯乃だからこそ炬奈は安心して朧埼を預けることが出来る。
 危険地帯に朧埼を置いたところで唯乃が守ってくれるなら心配は何一つ要らない。
 唯乃の戦闘力を強さを信頼しているからこそ。

「まぁ唯乃は単純な戦闘能力なら俺より遥かに強いならな」

 強くなりたい、そう思って罪人の牢獄を出た。目的を達成するためには罪人の牢獄から脱出する必要があったから。けれど出会ってしまった。自分より遥か上にいる実力者に。世界はまだまだ広いと否応なく実感させられた。
 幻想を夢見て強制的に現実に切り替えられた。
 自分より強いのに、唯乃は自分に頭を垂れた。その理由が今も昔も完璧にはわからない。自分より弱い者の下につく必要があるのだろうかと。

「なぁ、炬奈。お前は自分より弱い奴につきたいと思うか?」

 誰のことを指しているのか、炬奈は容易に想像がついたのだろう。すぐに口を開く。

「例え、唯乃より力が弱くても、お前から魅力を感じ取ったから一緒に行動を共にし、お前を主といってしたっているのだろう」
「俺の魅力はなんだ?」
「それは唯乃本人にしかわからないことだ。お前に感じる魅力に対しての感想には、私の感想があり、唯乃の感想があるのだからな。ただ、その信念に突き進む真っ直ぐな意思は魅力的だと思うぞ」
「そうか、有難う。俺もお前は真っ直ぐなやつだと思うけれどな」
「……真っ直ぐは時として何処に転がるかわからないけどな」

 真っ直ぐであれば歪むのも容易く。
 だからこそ――この場所にいる。

「そうだな。紙一重でしかない。表裏一体といっても過言ではないのだろうな」
「あぁ。俺たちが本当に純粋に真っ直ぐならこんなことはしないだろうからな」

 その言葉を区切りに炬奈は槍を握る。一歩一歩と踏み出す。
 侵入する時間がきた。合図はない。ただ其々の感覚で動きだす。
 地面の土を踏みしめ、夜空に浮かぶ月を眺める。


- 176 -


[*前] | [次#]

TOP


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -