第二話:分かりあうために 夜、十一時を回ったころ合いに遊月たちは動きだした。 夜中でもいる門番をまずは唯乃が攻撃する。 組織の敷地内に足を踏み入れる――すぐにばれるだろう。単なる時間稼ぎにしか過ぎない。 唯乃は朧埼と一緒に行動をしていた。正面入り口に炬奈と遊月の姿は見えない。 本来なら危険なことに朧埼を介入させないため、屋敷に置いていきたい心境だった。しかしそうは出来ない理由がある。組織が朧埼を狙っているからだ、誰もいないときに襲撃されたら朧埼では対処できない。その結果、朧埼は唯乃と一緒に行動をすることになった。唯乃の実力ならば、並大抵の奴は朧埼を庇ってでも易々と倒すことが出来る。唯乃以上の強さを持つものは怱々いないと判断してのことだ。 遊月でも行動を共にすることは可能だったが、遊月は千歳を此方側に引き込むという目的があった。 だからこそ、朧埼は唯乃と行動を共にしている。唯乃自身それに不満はない。主が自分の意思で行動をしているところに、自ら介入する必要はないと思っているから。 主の邪魔はしないし、主の邪魔をする存在を片付けて自分のやるべきことをやる。そう決断している。 「唯乃、俺なるだけ足手まといにならないように頑張るよ」 滅多に使用することのない、鈴のついた紐を握り締めながら唯乃の後方にぴったりと付いていく。 その様子が年相応で可愛らしく思わず唯乃はくすりと笑ってしまう。 「な、何か俺変なこといったか?」 「いいえ、なんでもありません。唯の一人笑いです」 それ気になるんだけど、と頬を膨らませ抗議の意を示すが、前方を歩いている唯乃にそれは伝わらない。 「それでは、私たちは私たちの仕事を始めましょう」 全ては自分たちの目的を達成するために――その為だけに。 その為だけに自分たちの都合で組織を壊滅状態にさせる。 身勝手だと、自分勝手だと、自分の都合でと理解した上で。 唯乃と朧埼の侵入に気がついた組織の面々が物騒な武器を構えやって来る。その瞳に歓迎の意は籠っていない。敵対する、好戦的瞳を浮かべている。 「ぞろぞろ集まって来てくれる方が私たちとしても助かります」 唯乃は一通り周囲を見回し、千歳がいないことを確認する。 律の目的を唯乃はわからない。けれど唯乃にとって主が全て。主の為に動き主の為に行動する。 律の目的を結果的に手助けすることに繋がっても、構わない。 「朧埼、下がっていて下さいね。決して攻撃範囲には入らないように」 「わかった」 朧埼は素直に後方に下がる。しかし紐はしっかりと握り占めたままだ。いざというときすぐに動けるように。 唯乃の髪の毛が鋭利な刃物へと変質する――その様子に、組織の面々は驚愕しながらも武器を取り落とすことはない。そして拳銃を唯乃へ向け―― [*前] | [次#] TOP |