零の旋律 | ナノ

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「まぁ最もお前らが千歳を殺さずに組織を壊滅状態に追い込めば、千歳を追う者はいなくなり、はれて自由の身となるわけだ」

 但し、といって付け加えることを忘れない。

「その場合、千歳は最初お前たちの敵になるわけだが」

 遊月は黙る。千歳に手を伸ばせばどちらにせよ組織と相対することになり、千歳とも刃を合わせることになる。

「お前は千歳と刃を交える覚悟があるのか?」

 静香の問いに遊月は答えられなかった。その時の静香の問いが、瞳が真摯で。何も言えなくなったのだ。

「それじゃあ、これ以上組織を開けると流石に俺も怒られるんで、下手したら殺されちゃうから帰るわ」

 友達が帰るように気軽に静香は言う。うちの組織は門限が厳しくて、とウィンクする。
 すたすたと出口から出ていく。扉が閉まる音がしてから、遊月は一息つく。出された珈琲を飲み干す。
 空になった器をテーブルに置いた後炬奈を見る。炬奈は無言で遊月は言葉を発するのを待っていた。

「なぁ、俺はどうするのが最良だ」
「忘れているのか? お前が取るべき最良と思える行動は組織を壊滅状態にすることだ」
「忘れているって何をだ?」
「律との言葉だ」
「あっ」

 千歳のことで頭が一杯で律の存在を遊月はすっかり忘却していた。遊月は記憶力が低下したのかと自分の頭を軽く小突く。

「肌で感じてわかっているだろうが、律の奴は有言実行だ。律にとって大切な存在以外は心底どうでもいいと思っている殺すのに一切躊躇しない」
「あぁ、わかっている」

 初対面だが、そう理解させる雰囲気が律には漂っていた。だからこそ選択肢は一つしかない。他の選択を選ぶよりも確実な。

「いつ、組織を壊滅状態に?」
「……そうだな、今日の夜って所だろう」
「流石に昼間から堂々と行くのもあれですものね」

 炬奈の案に唯乃が賛同する。朧埼も頷く。遊月が否定する理由は何処にもない。

「じゃあ、それでいこう」

 遊月は軽く手を叩く。それは決意の表れでもあるかのように――。


+++
 静香は岐路の途中思案する。恐らくは彼らは組織を壊滅させようとやってくるだろうと。自分はその時何をするかと。

「(千歳は多分戦う。自分の揺らぐ想いをなくすために。けれど……俺としてはね)」

 静香には目的があった。その目的を達成するために組織に入った。眼鏡を外して青空を眺める。鳩が二羽飛び交う。
 眼鏡を暫くの間凝視する。是は想い出の詰まった品。決して手放すことが出来ない。

「でも、千歳をそのまま放ってはおけないんだよなぁ」

 静香は子供が嫌いではない。むしろ好きの部類に入るだろう。そんなこんなで、組織でも最年少の部類に入る千歳を、それこそ小さい頃から面倒を見てきた。静香にとって千歳は弟みたいなものだった。
 だからこそ、遊月音音が訪ねてきたとき、自分が自ら外に出た。
 任務外の外出が基本的に禁じられている組織の掟に背いて。
 出来るなら兄弟一緒に暮らしてほしい、その想いがあった。千歳は遊月を心の底では求めている。けれどそれを素直に感情で、態度で示せないだけ。
 組織にいることがそれをさらに拍車をかける。
 考えごとをしているとあっという間に組織の門の前に到着した。
 早いなと感じながら静香は門の中をくぐる。


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