W 上着のポケットから千歳のペンダントを取りだし投げる。千歳は条件反射でそれを受け取る。 「……やっぱりこれで僕が誰だかわかったわけだね」 「最初からお前は俺に気が付いていたのか?」 「名前を聞いた時にね。まさか生きているとは思わなかったけれど」 お互いがお互い生きているとは知らずに生きてきた。 「俺もだ。……よく生きていられたな」 「よく、ねぇ。生きているから、だからこそ僕はこの組織にいるんだよ」 一人で生きていく術などなかった。だからこそ千歳は組織に頼るしかなかった。それがどのような道であれ。 「……」 「貴方は何をして生きてきたの?」 「俺は一度死にかけた身さ」 「話しの筋がわからないよ」 淡々と対応する千歳に対して、遊月は段々無口になっていく。何を話していいかわからない。あの時守ってあげられなかったのは自分。だからこそ兄弟として対面しても、兄として見られるとはないと思っていた。けれどペンダントを大切に所持していたことが嬉しかった。生きていてくれたことが嬉しかった。 「差し出がましいですが、どうして二人は離ればなれになったのですか」 話が続かない、そう思って根本的原因を唯乃は尋ねる。 二人は途端に沈黙する。答えたくない、そう答えることなく伝えていた。 だが唯乃も引き下がらない。 「離れ離れになってからでは、お互いをしる機会など訪れませんよ。もし、貴方達が会話をすることが出来るなら話すべきです」 返事はない。なおも唯乃は続ける。 「次に殺し合う関係となるならなおさらです。引き返すことは出来なくても、続けることは出来ますよ」 「おお、残酷だねぇ」 静香が会話に加わる。唯乃は人睨みして静香を下がらせる。 「どうするのですか? 主、それに千歳。此処で口を積むんでお互いの感情を隠したままサヨナラをするのですか?」 唯乃はそこまでで言いきると黙った。もう自分が話すことは何もないと。 暫く沈黙が当たりを包む。静香が沈黙に耐えきれずに口を開こうとする度にタイミング良く唯乃が睨みを聞かせる。静香はお喋り好きなようだった。 「……」 開口しようとして閉口する。想いは溢れてくるのに言葉にならない。 「千歳……」 「何」 「組織を抜けろ」 「大分身勝手だよね。僕はあの組織にいる。抜けることなんて出来ないよ」 「それは、抜けたくても抜けられないという意味か、それとも」 「前者だね」 最後まで遊月が言葉を続けることなく、千歳は告げる。じゃあと遊月が言葉を発する前に千歳が再び喋る。 「だけれど、僕は組織を抜けようと思ったことはない」 断言する。遊月の上がりかけた顔が下がる。 「貴方たちが僕たちの組織を壊滅させようとしているのなら、僕は今度こそ貴方たちの敵になるよ」 そうして、リビングから出ていく。遊月は手を伸ばそうとして、伸ばしきれなかった。千歳を掴みたかったが、掴む勇気がなかった。 [*前] | [次#] TOP |