零の旋律 | ナノ

V


「……不要なことをしたら今すぐに殺してやるよ」

 遊月はそう前置きする。静香は二コリと微笑んだだけ。その微笑みだけを見ると何処かの商売人のようだ。

「……俺たちは是から俺たちの目的を達成するためにお前らの組織を壊滅状態にする。千歳をそれに巻き込みたくない以上」
「うわっ、想像以上に自分勝手だ。身勝手だね。自分の都合の為に他者を滅ぼし、自らの為に千歳をそれに巻き込むんだ」

 不愉快な顔はない。むしろ愉快な顔をしていた。何処までも真意を相手に掴ませない。

「俺たちはそういうものだ」
「他者の都合などお構いなしか」
「あぁ。まぁ目的は壊滅状態にすることであるから、お前が今すぐ尻尾を巻いて逃げるというのなら見逃すが?」

 爪がきらりと輝いた用に一瞬静香には見えた。

「それは御免だ。俺だって組織の人間だ。つまり今度会うときはお互い敵ってわけね。なら無理だよ」
「あ?」
「千歳は君たちのもとへはいかない。千歳は組織の味方として戦うよ。君たちと敵対する」

 静香は断言した。
 それは遊月にとって否定したくても否定できないことだった。千歳は多分自分の言葉には耳を貸さない。何処で感じていることだった。

「それでも一度だけ話がしたい」
「だ、そうだよ。千歳」
「!?」

 驚愕しながら周辺を見回すと、隅から少年――千歳が姿を現す。

「どういうことだ!? 後をつけた来たのか?」
「いえ、私にはそう言った気配を感じませんでしたが」

 唯乃が即座に否定する。人形師虚の気配を感じることは出来なかった。しかし唯乃自身気配には敏感だ。少年が後をつけてきたのなら気がつく。屋敷の中に侵入して来た気配もなかった。

「お前らが相当な腕前だったのは遠目からでも判断出来た。だから俺が行く前に千歳に彼らを知っているか確認した。そして少年少女が日鵺の人間だともね。日鵺の人間だってのは、千歳が後で調べて知ったんだけど。まぁそんなこんなで後をつけさせようにも気がつかれる可能性が高かった。ならば後をつけなければいいだけの話だ。俺が日鵺の屋敷にいくように誘導して、その前に千歳は日鵺家に侵入して姿を隠しておく。最初から人がいるなんて普通思わないし、動かなければ気配はさらに判断しにくくなる、というわけで」

 やられた、そう思った。完敗だと。全ては静香の掌の上だった。

「お前らが何の話をしたいのか気になったからな、最初から千歳を連れてきたってわけよ。ただ千歳本人が目の前にいる場合、俺は席を外される可能性があるし、うわべの言葉で千歳を言いくるめる可能性もあったからな、こういった手段を取らせてもらった」
「……やられたな」

 降参ポーズを一瞬だけとってすぐに手を下ろす。遊月は現れた千歳の顔をまじまじと眺める。あの時は敵としての認識しかなかった。


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