U 「千歳は俺の弟だ。弟が此処にいると知ったから会いたくなったんだよ」 弟の単語に静香は呆ける。 「まじで? 千歳から兄がいるなんて聞いたことないんだけど」 「本当だよ。つか似てない? 俺と千歳」 「うーむ」 上から下までマジマジと凝視する静香にそんなに凝視するなよと心の中で呟く。 「似ているっていわれりゃ、そりゃ少しは似ているようにも見えるけれどなぁ。まぁ髪の毛と瞳は同じ色だわ。千歳って名前で呼ばれるの嫌っているから、他人に名前を名乗らないし、それを考えるとやっぱり兄ってのは嘘じゃないのかな?」 眼鏡をくいっと上げる。 「でも、千歳は多分面会を求めても、千歳自身が拒絶すると思うよ」 「……だろうな」 「千歳は君を求めてはいないだろうからね」 「だろうな」 遊月は否定しない。ただ肯定する。もし本当に求めていてくれたのなら、会いたいと思ったのなら、依頼人の屋敷で既に何かしら反応をしてくれたはずだと。 「否定しないんだねぇ。……じゃあ、ちょっと喫茶店にでも行こうか。あぁ出かけてくるねぇ〜」 喫茶店という言葉ではない、出かけてくるという言葉に門番はあからさまに顔を顰める。此処は自由に外出出来る組織ではない、らしい。しかし静香が何かを門番に耳打ちすると、門番は外出を承諾した。 「じゃあ、いきましょうか〜」 大分方向性がずれたなと炬奈は密かにため息をつく。 このまま喫茶店に向かうともわからないのだから――と思ったら辿り着いた先は何故か日鵺の屋敷だった。 静香が君たちの自宅に行こう、と言ったからだ。特に来られて困るものもないため、炬奈は日鵺家に帰宅することにした。自分たちの正体がばれて困ることはないだろう。むしろ組織からの手が出しにくくするための防衛でもあった。 「わー、君って日鵺の人間だったんだ。ってあれ? 人生きていたんだ」 間抜けな感想をする静香にこいつは年上かと疑う朧埼だった。 「勝手に私たちを殺すな」 リビングに着き、朧埼が珈琲を入れる。それを全員に渡すと静香は毒が入っているかも確認しないでそのまま飲みほした。一切の躊躇が感じられない。 「さて、本題に入ろうか。なんで今さら千歳を求める?」 「……千歳が生きていると思わなかったから」 「ダウト」 真剣な瞳で遊月は見つめられ思わず後ろに下がりたくなる。ソファーに座っていなければ後ずさりをしただろう。 「下手な嘘はいらない。嘘をつくたびに君たちの信頼が減るだけだ。此処でそれをするのは得策とは思わないね」 「ならば、全てを正直に話せばお前は千歳と会話をさせてくれるのか?」 「場合によるよ、そりゃ。俺だって組織の一員なのですから」 「……」 「ってのもまぁあるけれど。いいよ。正直に話してくれたら千歳に無条件で合わせてあげよう」 予想外の言葉に遊月は呆然とする。この男は一体何を企んでいる――眼光が鋭くなる。 「怖い顔しなくても大丈夫だよ。俺が何のために態々君たちの自宅を場所に選んだのよ。それに後をつけている輩なんていなかったんだから」 喫茶店であれば誰かに聞かれる可能性がある、だからこそそれが低い彼彼女らの自宅を選んだ、そういうことだ。 [*前] | [次#] TOP |