第二話:そこにあるは目的 ――俺には姉さんだけいればいいそれだけで良かったんだ 「姉さん。段々と薄暗いこの罪人達の牢獄がより一層薄暗いんだけど……」 朧埼はくすんだ灰色の空を見上げながら、 実姉である自分の前を歩いている姉のコートの袖を僅かに引っ張る。その手は僅かながらにも小刻みに左右に震えていた。 「そうだな、だけれども、私たちの目的がこの地にあるのならば、私は進む。朧埼はどうする? 今なら帰ってもお前の実力でも問題はないはずだ」 姉は朧埼の震えに気づきながらも、後ろにいる朧埼を振り返らずに歩きながら朧埼の言葉に反応をしていった。もっとも本来此処は一度踏み入れれば出られない場所。しかし、炬奈と朧埼はこの地にやってくる時に“帰り道”を作ってきた。その場所までたどり着けばこの牢獄から脱出することは可能だった。 それは、炬奈と朧埼が“罪人”ではないから、前もって準備が出来たから可能な芸当。 「やだよ。俺は姉さんに害をなすやつがいたらやだ。絶対に一緒についていく。姉さんだけが唯一の俺の家族なんだから(姉さんは俺が守るんだ)」 「わかっているよ。ただな、お前が無理をしてついてくる必要はないんだぞ? 日鵺を壊滅させた……皆殺しにした集団は私が必ず殺す。だから、お前は生き延びろよ? 私に、構わずに」 そう言って姉はそこで、朧埼の方を振り返って朧埼の頭を撫でる。 朧埼は恥ずかしそうに姉の手を軽く振り払ったが、心の中では嬉しかった。 唯一の肉親の手は暖かくて心の中の未知の土地に踏み込むという恐怖感が少なからず取り払った。 朧埼には姉の女性の温もりに安心感が生まれ、恐怖感が薄れていく。姉は朧埼がこの世界でもっとも大切で失いたくない存在であるから。だから自分はその姉がやろうとしていることを妨げる存在は排除しようする。 姉の敵は自分の敵だから、姉はこの世界で一番の大切な存在だから だからそんな姉の言葉に朧埼は僅かに反論する。 「俺だけが生きるなんて嫌だ。姉さんも一緒じゃなきゃ。俺だって、母さんや父さんを殺して、一族を殺した集団を殺したいんだから。俺たちが味わった以上の恐怖を味あわせてやるんだから復讐するんだから」 朧埼は姉さんに話しかけていたが、やがて復讐や恨み、姉への思いによって、途中から独り言のように呟いていた。 復讐という言葉を呟く朧埼に一種の冷たさを空気で感じながらも、姉は前に向き直って歩き始めた。 「(今の時間では振り返ったところで朧埼の顔を眺めてやることは私には不可能だ)」 そう心の中で思いながら、姉は空を見上げた。曇天とした“空”ではない空を。 [*前] | [次#] TOP |