零の旋律 | ナノ

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 組織の本拠地。一見すると貴族の屋敷のようにも映る。けれど、侵入者対策の柵が物々しい。敷地面積は広いが、何処か暗い暗を感じさせる。
 周辺には槍を構えた門番がいる。彼らも組織の一員なのだろう。門番が武器を所持していることは別段不思議ではない。貴族達が住む場所では日常的な風景だ。
 組織は一見すると貴族に見えるように仕立て上げ、人々から自分たちの組織が疑問に思われないように工作していた。組織の本拠地は人里から少し離れ、周りに建物も少ない。最もその建物も組織のものだろうが。

「此処に遊月千歳がいるって聞いたんですけれど、会うことは出来ますか?」

 炬奈が丁寧に門番に話しかける。門番は怪訝そうな顔を隠そうともしない。槍を握る力が僅かに強くなっているのが、唯乃には判別出来た。
 炬奈を先頭にその後ろに唯乃、遊月、朧埼が横に並んでいる。
 人が会いに来る、など門番たちも経験したことがないのだろう。対応に聊か困っている。だが、組織の情報を万が一、千歳が漏らす可能性も無きにしも非ず。それに彼彼女らがこの組織に不利益をもたらす存在だとも限らない。但しその場合はもっと秘密裏に行動するだろうし、堂々と正面からやってくるとも判断しがたかった。それらが門番を悩ませる。

「……しばし待たれよ」

 結局門番は自分たちでは判断しきれないと判断し、上層部に判断を仰ぐために一人が一時その場を立ち去る。
 炬奈たちは立ちつくした状態で門番が戻って来るのを待つ。
 門前払い覚悟出来たのだから、この対応は意外で、表情には出さず驚く。裏組織でありながら、対応がしっかりしているなと。
 五分後、一人の人物と一緒に門番は戻ってきた。
 二十代中ごろらしい容姿に、眼鏡。黒髪、桃色の瞳が興味深そうに炬奈たちを順番に見回す。
 右手には狙撃用ライフルが握られている。一瞬あの時千歳を狙撃した狙撃主かと勘繰る。実際はその通りだったのだが、この時はまだそうだと知ることはなかった。

「へぇ、君たちが千歳に会いたいっていった風変わりな人達か。俺は静香(しずか)宜しくね」

 ライフルを左手に持ち替え、右手を差し出す。何故友好的なんだと思いつつ炬奈は右手を差し出し軽く握手する。
 この人物が上層部の人間にはとてもではないが見えなかった。

「因みに俺が代理ね。そんなやつら適当にあしらってこーいって上から言われたもんで」

 あぁ、だからライフルを所持しているのかと炬奈が納得しかけた時、唯乃が僅かに一歩前に出る。

「それは、つまり私たちを殺すということだろうか?」

 唯乃が完全に臨戦体形になる前に、確認しなければと炬奈は早口で問う。

「んーそれは俺次第? 別にむやみやたらに殺すわけじゃないし、ってか此処が普通の屋敷じゃないと知ってやってくるモノ好きがいるとは思わなかったよ」

 フレンドリーさを全身から醸し出しながら、それでも視線が唯乃に向けられているのが炬奈にはわかった。

「知っていて、最初からきたのさ」
「それはそれは。しかも門番に正面から堂々と面会を頼むなんて、君ら馬鹿? それともその逆? どちらにしても千歳に何の用?」

 まだ、静香はライフルを構えない。もっともこの距離で扱うのは不利だろう、という距離に静香は立っている。態とだ。態と静香側が不利だと判断させて、まだ戦う場面ではないと牽制している。
 炬奈は遊月に目配せをする。遊月は頷く。


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