零の旋律 | ナノ

第一話:組織


 ある組織、それしか律は教えなかった。しかしすぐにそれが何の組織だか判明する。
 組織に固有の名称はない。ただ単に組織と呼ばれていた。それはあえて固有名詞を避けるとことで、何をしているのか悟られなくするための術だった。
 だからこそ、律も固有名詞を使わずにある組織とだけ言ったのだなと炬奈は理解する。
 あの男が組織の名前を知らないはずがないから。そう言った面でのある種の信頼を持っている。

「名称がない組織ってのも面倒だな」

 呼びようがないから、と炬奈は付け加える。

「単純に組織でいいだろ」
「まぁそれもそうなんだがな」

 組織のことを調べるのに一日費やした。残り五日。その間に終わらせなければならない。
 一日も費やしたのは、他にも理由があったが省略。
 遊月たちは今日を含め五日とも行動が共にしやすいように日鵺家に停泊することになった。
 炬奈がそうするように進めてきたからだ。遊月も唯乃もその方が効率的であり、断る理由もないため、提案を受け入れた。ただ朧埼が姉さんとの時間を邪魔された、と嫌な顔をしたが、別に嫌悪しているわけではない。月日を共にするようになり、朧埼の表情の意味を僅かばかり理解出来るようになっていた。

「さて、今日からはどうする?」
「まずは、お前の弟から行くか」
「……あぁ」

 過去逃げた。今度は逃げない。引き裂かれた糸を再び繋ぐことが出来るなら、どんなに嬉しいだろうか。
 一度壊れた硝子は元には戻らなくても、そこあら新たな硝子を築き上げることは出来るだろうか。
 ――千歳、今度は千歳を守る。守るなんておこがましいけれど。

「俺個人の感情としては千歳を巻き込みたくはない」
「……まぁ、私たちとしても邪魔さえされなければ問題ない」
「私は主の言葉に随いますので」
「唯乃がそういっちゃったらさぁ、俺たちそうするしかないじゃん」

 笑いながら朧埼は反応する。唯乃と朧埼の実力を知っているからこそだ。しかしそこに敵意は感じない。いくら利害関係で行動を共にしていたとしても――既に赤の他人と割り切れる程ではなかった。

「つか、どうやって千歳を見つけ出すの? 面会にでもいくのか?」
「門前払いを食らうだろうが」
「なっ、いってみただけじゃんよ!」

 遊月が呆れながら、まぁ門前払いをくらう覚悟でいくのもありかもなと苦笑いをしながら付け足す。

「じゃあ、それでいくか。いくぞ」

 そしてそのまま朧埼の案が採用され、門前払い覚悟の面会に行くことになった。
 組織に面会を求める人物など怱々いないだろうが――


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