零の旋律 | ナノ

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「別に皆殺しにしろ、といっているわけじゃない。組織を壊滅状態、それこそ再起不能に追い込んでくれればそれで構わない」
「……」
「待て、律」

 遊月は無言になるがかわりに炬奈が口を挟む。

「何故、それを私たちに頼む? お前なら足手まといを引き連れることなく、一人で現状に赴き組織を壊滅させるだろう」
「それが現状で出来ないから他人に頼むってのじゃ理解が出来ないか?」
「あぁ、出来ないね。はなっから人を信じてなんかいない、信じる必要もないと思っている奴が、壊滅状態にしてほしいと? ふざるな。お前ならこういつはずだろ、皆殺しにしろと」

 それは律の性格をよく知っているからこその言葉。朧埼も首を縦に振り、同意を示す。

「それともお前は、お前のような性格のやつが、今の状況を依頼されたとして、首を縦に振るのか?」
「拒否するな」

 速攻否定するな、自分で提案したのだろと遊月は突っ込みたくなるのと同時にあきれ果てる。

「……まぁ、しいていうなら俺は今別件に集中したい。そして別に玖城家に怨恨を持っている組織ではないし、玖城に害を成そうとしている組織でもない。だからこそ皆殺しではなく壊滅状態に追いやればそれでいいんだ」
「それも不自然だろ? お前は玖城の為にしか動かない」
「不自然ってわけではないはずだ。俺たちが何をしようとしているか、何を許せないのか、そこに少しでも繋がりがあれば、繋がりを断絶する。回路を作らないように徹底的に塞ぐ、それだけだ」

 もしもの話。もしも組織が手を貸した時の為に予め対処をしておきたいだけ。
 そして都合よく人手がいたから利用しようとした。
 それだけの感情、それだけの理由。
 相手が頷くと知って、相手が目的を達成するために何だって利用しようとするのと、同じように。ただそれよりも狡猾に。

「……成程な。遊月どうするんだ?」

 壊滅状態にするためには遊月と唯乃の力は必要不可欠、ならば決断を下すのは遊月と炬奈は話を振る。

「勿論受けるに決まっている。可能性がなんであれ、そして弟がいるのなら」
「賢い選択に感謝するよ」
「最低だな、お前は。もし俺が此処で切り捨てればお前は俺の弟を真っ先に殺しに行ったんだろ? その程度の手間は手間とでも感じないように」

 空気が、存在そのものが鋭い刃のように鋭利で。

「利用できるものは、なんだって利用する、だろ?」

 その時遊月は罪人の牢獄にいる罪人たちが善人だったのではと錯覚する。罪人より、ずっと、ずっと、この男は悪人だ。計り知れないほどに。
 要件は終わった、これ以上は会話することはないと律は背を向けて歩き出す。
 律の姿が見えなくなったところで張りつめていた緊張の糸が切れる。

「何者ですか、彼は」
「玖城家に仕える人だよ。冷酷無慈悲悪逆非道の元じゃないかと疑うほど性質が悪い」
「えぇ、それは雰囲気からわかります。でも……ピンク帽子似合いませんね」

 唯乃が正直な感想を告げる。炬奈はその感想に苦笑いしか出来なかった。まして、それを脱ぐとさらに性格が悪くなるとは言えなかった。


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