零の旋律 | ナノ

V


「此処はな、こんなにも暗い闇と化しているのは、罪人に恐怖を与えるためなんだよ。これから死に直面する罪人に恐怖を与える為に、先の見えない深い深い奈落を人の手で自らが作り出したんだ。それが、後に自らの首をしめる道具になるなんて思いもしなかっただろうけどさ」

 地面に着地した主は女性に丁寧に地面に足を降ろされてから、女性がもう飛ぶのには必要のない翼をしまい終わった後、主は口を開いた。
 この地に地の利がない女性に、この場所についての知識を多少なりと理解してもらうためにこの地の事を話した。
 もしも問題が起こった時に、この地に詳しい自分がいなくとも、女性一人でも解決が出来るようにとの配慮が含まれていた。



 この土地は外界の政府が管轄する世界ではなく
 政府から見放された無法地帯である『罪人の牢獄』だから
 外界で通じる常識はこの空間では通じることなんて殆どない。


「罪人達の牢獄では外界での常識なんて殆ど通じないから、どんな事を起こそうとも、この土地にいる以上、罪は起きない」

 この土地のことを語る主に女性は無表情に応じる。

「わかりました。肝に銘じておきましょう。しかし、主、私は存在そのものが罪ですよ。私は人形(ドール)ですから、貴方だけにつき従う只の人形です」
「お前の存在が罪なら、俺はいったい何なんだよ。唯乃」
「主は主、私の現在の唯一無二の主ですよ、遊月ネオ」

 二人は互いに顔を見合せて微笑した。
 二人は似た者同士だから、だから二人は主従関係を結ぶ。

 主と呼ばれる二十歳前半の青年遊月ネオと
 自らを人形と呼ぶ二十歳前半の女性唯乃沙羅は

 自らの罪を増やすために罪人達の牢獄に足を踏み入れる


 そこに希望はない。
 あるのは絶望だけ
 希望なき空間だから、夢なき世界だから、探そうとする

 幾百の悲しみを手に人は何を見つけるのだろう

 幾百の悲しみを得たら人は学ぶのだろう

 繰り返し

 繰り返すだけ

 だから人々はそれを恐れる

 絶望を――


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