零の旋律 | ナノ

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 遊月音音、そのペンダントに書かれていた名前は間違いなく、遊月のことを指している。
 このような偶然があるのだろうか、それとも運命の糸は酷く残酷なのだろうか。

「……馬鹿な……、馬鹿な馬鹿な……」

 唖然とし、同じ言葉を繰り返す。信じられないと。あり得ないと否定する。
 けれど、その名前――千歳は忘れられない、忘れられるはずがない名前。

「オイ。遊月、どういうことだ?」

 現状がわからず朧埼は問い詰める。虚は意味ありげな表情で楽しそうに観察する。

「……千歳(ちとせ)は……俺の弟だ」

 それだけをようやっと言葉にする。
 千歳が生きていたという現実を遊月は認められなかった。
 あの日、自分と千歳が分かれたあの日千歳は死んだのだと思っていた。
 別れたはずの弟に再び会えた音音の心の宿ったのは喜びでも歓喜でもない。自身を襲う激しい後悔。

「弟? 主に弟がいたのですか」

 唯乃は首を傾げる。今まで主の口から弟の言葉が出てきた事は一度もなかった。寝耳に水の状況だ。

「あぁ……死んだと思っていたよ、何年も。千歳の姿を最後に見た時からずっとずっと」

 ――それが、今になって……今さら生きていたとわかるなんて。
 遊月にとって残酷な事実だった。願わくば別人であることを、しかし別人のはずがないと遊月の本能は告げている。

「ペンダントだけで……弟さんだと主は確証出来るのですか?」

 唯乃は残酷だと理解して、あえて今ここで質問をする。

「確かに、瞳と髪の毛は主と同じ色でした。そしてペンダント。しかしそれだけです」

 唯乃の言葉通りであった。例え髪と瞳が同じ色をしていても、遊月千歳と遊月音音の名が彫られたペンダントを持っていたとしても、それは少年が千歳本人とはならない。
別人がペンダントを持っている可能性も無きにしも非ず。

「いいや、違う。あいつは俺の弟だ。生きていれば十六。このペンダントは俺も持っている」

 遊月が首元から、普段は服で隠れている見えないペンダントを取りだす。
 それは多少の古びた差はあれど模様もデザインも全く同じだった。

「あいつは、俺の弟だ――」

 死んだと思っていた
 死んだと勝手に想いちがえていた
 ――なぁ、千歳。お前は俺を恨むか? お前を見捨てた俺を、憎むか?


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