第五話:弟 狂気は光を失い 愛憎は闇を見出す 人形は繋ぐ 彼らの血の巡り逢いを 人形師は冷笑する 彼らの終わりを 罪人は願う 果てなき終わりの地からの終末を ――ねぇ、どうして私らは世界に踊らされるんだろうね 「貴方達の目的はどうやら、達成できたようだね。その人形には色々と謎が残るところだけれど……じゃあ、僕の目的も果たさせて貰うよ」 一筋の絶望が見えたとき 一筋の闇が来る 絶望と闇を天秤にかけ 彼は闇を選ぶ +++ 罪人の牢獄深部に彼はいる。 悠然としながら、遥か遠くを眺めているようだ。 「巡り会いはいつの日か、一度巡り逢えば彼らは再びこの地に廻り合う」 光りなき牢獄の中で、不釣り合いな程豪華なソファーに座り足を組む。 「そう、彼女が全てを算段し、此方へ導く」 暗示であり、言霊でもあった。 彼は、罪人を統べる者なり 彼は、牢獄を掌握さし者なり 罪人は彼の者に従うべし ――サスレバチツジョヲシル +++ 少年は拳銃を再び依頼主に焦点を合わせる。 その時、窓ガラスが割れる。発砲音が響く。少年は膝をつく。カラン、と何かが転がった音がする。どれもが同一の出来ごとによって起きた出来事のように映る。 けれど、窓ガラスが割れ少年の右肩は銃弾が掠め、銃痕が絨毯に残っている。 そして発砲音は、少年が打たれた衝撃で、反射的に引き金を引いたもの。当然重心はぶれ、狙い通りの所には当たらなかった。 しかし依頼主の腹部をそれは貫いた。服は瞬く間に赤く染まる。 「一体、何」 狙撃される覚えはない。少年は窓の先を見る――。少年の視界には誰も映らない。ただ。狙撃するには恰好の建物があることだけ。 顔を顰めながら痛みを堪える。立ち上がり再び引き金を引こうとしたが――依頼主がもう長くないことを悟る。暴発に近いそれですでに致命傷。即死には至らなかっただけ。 苦悶しながらも依頼主は笑っていた。狂気の笑みを浮かべ、人形を愛おしそうに触る。 その瞳に苛立ちを覚えながらも、少年は拳銃をしまう。 「あぁ、夕衣、夕衣、夕衣」 夕衣と繰り返し続ける。最初から少年の姿など映っていなかったように。少年から撃たれたことすら覚えていないように。痛みさえないように。 [*前] | [次#] TOP |