零の旋律 | ナノ

V


 朧埼と同じ歳くらいの少年が、朧埼とは対照的に振舞う。
 朧埼は感情豊かに、喜怒哀楽に。少年は無表情に、感情が欠落しているのではと思わせるように。

「……」

 少年は静かに依頼主に対して拳銃の引き金を引こうとする――

「待て、少年」

 止めたのは遊月だ。遊月の方に視線を合わせることなく、視線と標準は依頼主を向いている。

「……少年、交渉しよう」
「何を馬鹿なことを?」

 交渉する余地なんて存在しない、そう切り捨てようとしたが次の言葉によってそれは口を紡がなくなる。

「俺たちの目的と、少年の目的両方達成しよう」

 人が人であるのならば、人は皆罪を犯す。
 この世に善人が存在するのならば、それは生まれたての子供だろう
 人が人として生きていくのならば
 それは『罪人』

「どういう、意味?」
「俺は善人じゃない、悪人でいい」
「だから?」

 遊月の言いたいことが理解出来ず、少年は遊月の返答を待つ。

「別に、俺にとっては誰が誰としてあると興味がないということだよ。目的を達成するためなら、どんな手段だって厭わない。自らの目的を達成するなら、何だってしようじゃないか。泥にも闇にも血にも足を踏み入れる」

 それは虚偽の囁きか真の囁きか
 真は本人のみぞ、知ることが叶う

「……最悪だね、君は」

 僅かに、感情を感じさせなかった少年が口元を緩めた。その真意は何か。

「どうだ? 悪い条件じゃないだろ?」
「まぁ、別にその辺は悪いとは思わないよ。けれど、本人の前でそれを言うかね?」

 どちらに転んだところで、どちらの目的が果たせた所で、依頼主は殺される結末が待っているなら、それを本人の前で平然と遊月は告げた。

「ははは」

 笑い声が、愉快な笑い声が響く。依頼主だ。

「何?」

 少年が首を傾げる。

「まさか、この私の前でそんな提案を平然と持ちかけてくる人がいるとは思わなかったよ。君は間違いなく、否定しようがなく、弁解しようがなく、弁明も出来ず悪人だ。間違いないよ」
「そんなの昔に自覚済みだ、悪人で罪人で結構。俺は俺の目的を果たす為に」
「ははは、本当に愉快だな。そして吐き気がする」
「あんたが吐き気をしようが、愉快になろうが、別にあんた一人を手にかけるくらい俺にとっては容易だ」

 今までも、是からも人を殺す。遊月は視線を細める。相手が自分の顔を見てなかったとしても。殺気を含ませるその視線に、依頼主は怯むことはない。

「全く。どいつもこいつも。同じじゃあないか。あるのはほんの差異だけだ。少し転がり方を間違えれば、此方側の住民さ。さぁ、殺すなら構わないよ、私は今まで非人道的な行いを平然とやってきた。そろそろここらで幕を閉じるのも悪くはないだろう。夕衣に出会えて夕衣の声が聞こえて、夕衣が傍にいるこの場でならね」


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