零の旋律 | ナノ

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 唯乃はその意味を咀嚼する。
 政府と、そして人形。人形だと名乗る自分。

「……どうやら、下らないことをしていたみたいですね」

 そして結論に至る。例えその結論が何に至ったとしても、唯乃が是から行く先は変わらない。自分で決めた道は変えない。

「あぁ。そうさねぇ下らない。実に下らない出来ごとだよ。ただ、藁にもすがる思いは何処の誰にだってあるものさ。それが大切であれば、大切であるほど」
「否定はしませんよ。けれど、ですからといって加担する意味も理由も、到底納得は出来ません。瓜二つにしようが、元が、原型が何であれ、同じものは作れないでしょう」
「完璧に同じものを作れるか、作れないかは別としても君が覚えていない時点で同じとは言えないね」

 君は過去の記憶を取り戻すわけではない。そう虚は付け足す。

「おい、一体どういうことだ?」

 一体何の会話をしているのか、当の本人たち以外には理解出来ない。まさしく蚊帳の外だった。

「端的に言えば、私の元が夕衣だったということです」
「!?」

 予想外の出来事に開いた口が塞がらない。特に朧埼は呆然と呆けている。必死に頭の中で理解しようとしているが、そもそも朧埼は人形に関して知識が余りない。理解しようとしても、その理由と意味がわからない以上理解を殆ど出来なかった。

「一体どういうことなんだよ。端的過ぎてわかんねぇって」

 朧埼が真っ先に声を上げる。

「そのままの意味です」
「いや、それがわからないのだが」

 遊月も左右に首を振る。遊月にとっても人形に対しては必要以上の知識はない。
 炬奈は一人手を顎に当てて考えている。何か人形について思い当たる節があるのか――。と、そこで拳銃の発砲音が響く。

「どうでもいいけれど、僕の邪魔をしないで」
「邪魔か。それは此方の台詞だな。私はさっさと依頼を終わらせたいのだ。手を引いてもらおうか?」

 言葉での説得が不可能だとしても、此方は四対一。虚が加わるならさらにその数は変わる。ましてや遊月や唯乃に至っての戦闘能力は折り紙つきだ。少年一人では到底勝てる相手ではない。炬奈はそう判断した。

「まさかとは思うが、この状況で不利なのはどちらかわかっているよな?」
「そんなの火を見るより明らか。でも、僕だって依頼を受けた以上引けないんだよ」

 それに、と少年は言葉を続ける。

「君たちは僕を止めなければいけない。けれど僕は君たちに対して行動を起こす必要はないんだ。僕は、この人さえ殺せればそれで構わないのだから。条件が違う」
「もし、少年の依頼が達成できたとして、それで少年が死んでは意味がないのではないのか?」

 必要性がない、そう肌で感じながらも炬奈は問わずにいられなかった。
 この少年には意思を殆ど感じない。ただ命令された通りに実行するだけ。必要外の感情を排除して持ちこまないようにしている。
 感情移入することがないように――

「別に依頼が達成できればそれで構わない。それで僕が死のうが。それに、失敗しても僕は死ぬだけ、だしね」

 意味はないよ。淡々と語るその口調に炬奈は眉をひそめる。


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