第四話:生きていた再会 この惨劇を作り上げた犯人と思しき人物がその場にいた。依頼主と共に――。 拳銃は此方に向けられている。 「……何だお前」 遊月が冷静に問う。 その時一瞬だけ相手は目を見開く。十代中ごろ、朧埼とそう変わらない年齢に見える少年。黒い服に身を包み、黒い髪の毛は肩までで乱雑に切りそろえられている。首元には首輪にも取れるリングをつけ、僅かに銀色の鎖が見える。 紫色の瞳が鋭く見据える。 「僕は態々貴方たちに名前を名乗るつもりもない。もし固有名詞が欲しいのなら貴方達が好きなように呼べばいい」 「そうか、なら少年。お前は何をしにこの場に来た?」 愚問だ。そう感じながらも形式的に炬奈は問う。依頼主を殺されては困る。 「……見ればわかるでしょ?」 何を態々その程度の下らないことを、そう言っているようだった。 「下らなくはないと思うが」 「僕は何も言っていないけれど」 「少年の態度がそう言っているようにしか聞こえないだけだ」 「……」 遊月の言葉に少年は口を紡ぐ。 「じゃあ逆に問うかな。貴方達は一体何の目的で此処に来たの?」 「私は、依頼を完遂するために来た。それだけだ」 炬奈が正直に目的を話す。 「……名前」 「は?」 「貴方達はなんて名前なの?」 初めて、興味がそこで湧いたとでも言うのか、少年は炬奈達に名前を求める。 自分が名乗っていないのに、相手が名乗るか。その思考は過ったが、返答がないならないで構わない。そう考えなおす。 「自分が名乗らないのに私たちに名前を問うか。まぁいい。私は炬奈、そっちの銀髪は私の弟で朧埼。黒髪の男は遊月、深紅の髪の女は唯乃だ」 炬奈が端的に名前を名乗る。 「……遊月か」 誰にも聞こえないように、少年は呟く。郷愁な面持ちを一瞬だけ垣間見せて。だが、それに誰も気がつかない。 「で少年もう一度問う、何をしにきた」 それが、この状況で判断出来ることが一つしかなかったとしても、別の可能性が僅かでも残っているならと期待を込めて。 「……はぁ。僕は殺しに来ただけ」 「何故」 「知らない」 「ならば聴き方を変えよう。誰の命令で?」 「……それを僕が答えると思っているの?」 威嚇射撃で炬奈の耳元すらすらで発砲したが、炬奈は反応を示さない。朧埼だけがぎょっとして少年を睨むが、少年は朧埼を歯牙にもかけない。 「貴方がこのまま手を引くといのなら話は変わりますが……」 「夕衣(ゆい)!? 夕衣なのか!?」 平行線のまま進む。そう感じた唯乃は口を開いたが、話し終えることなく、それは別の声によって中断された。この中で耳にしたことがある声ではなかった。となると可能性は一人――依頼主だけだ。 車いすに座りブランケットをかけている老人だ。瞳を瞑っているが、声は驚愕と感動に満ちていた。 「夕衣(ゆい)……? 誰なのですか」 この場で誰が夕衣と呼ばれているか等明白だった。唯乃は心当たり等全くなく、困惑する。 [*前] | [次#] TOP |