零の旋律 | ナノ

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「全く忙しい輩だねぇ。余りに急ぎ生きるのもどうかと思うが。それも若さゆえ、なのかねぇ」

 炬奈たちの後をゆったりと着いていく。視界から四人が消えても慌てることはしない。虚の背中には炬奈に渡した人形とは別の人形を包帯に包み、所々に薔薇の飾りをつけ持ち運んでいた。

「全く、そこまでしたところで最終的に起こる結末は、何一つ変わりはしないのに」

 一人呟く。星星が煌めきを見せる夜空を見上げながら。静寂な空気を肌で感じなが ら、一歩一歩目的地へ進んでいく。
 ――誰かのために何かなんて出来ない。君のためなら私は何だって出来る。そんなのただの戯言。所詮全ては自分自身のためだよ


+++
「……さぁ、夢を終わらせようか」

 感情を忘れ去っているのでは、と思えるほど淡々とした口調で手に握っている拳銃を目の前の人物の額に突きつける。
 叶わなき願いを追い続けてきたのなら、せめて最期は苦しまないように、鮮血に彩ろう。

「さような……誰?」

 扉が勢いよく開く。拳銃を目の前の人物から外し、扉の方へゆったりと向けそして――


+++
「一体何が起きた?」
「屋敷の護衛たちでしょうね。彼らは」

 依頼主の屋敷、それは日鵺の屋敷と比べると幾許狭さを感じさせるが、それにしたって充分広大な面積を持つ豪邸だった。その屋敷を見ながら遊月は依頼相手が貴族だったかと判断する。門は屋敷全体を囲んで不法侵入者が入らないようにしている。自分の背三つ分くらいありそうな柵は簡単にはとび越えられないだろう。柵の天辺には術が付加してある。万が一飛び越えようとしても術が発動する仕組みになっている。徹底した防犯対策のように遊月には映った。
 この依頼主に人形を渡せば終わるはずだった。しかし門は開きっぱなしで、警備の姿も見えない。
 顔を見合わせた後屋敷へ足を踏み入れる。
 庭園には護衛と思われる人物たちが横たわっている。慌てて近づき、脈を測るが脈はない。遊月が首を横に振ると、炬奈は怪訝な顔をする。
 この屋敷で一体今何が起きている。

「急ぐか?」
「あぁ。何か面倒なことになっているな」

 人形を渡すだけでは終わらない予感がひしひしと伝わって来る。
 屋敷の中に入ったところで最初に目に入ったのは床に倒れ伏す護衛の人々。真っ赤な血が絨毯に模様を描く。
 ――僅かな希望の欠片を手繰り寄せてお前は一体何を仕出かした
 名付けられたその名は彼女に一時の幸福を与える
 零れ落ちる雫に彼女は微笑む

 依頼主の自室に辿り着いき勢いよく扉を開けた。万が一鍵がかかっていた時の為、扉を破れる程強い力で。唯乃が放った蹴りは扉を凹ませ、扉を倒す。

「……すげぇ」

 朧埼は思わず率直な感想を漏らす。


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