零の旋律 | ナノ

V


 貴方だけの人形で居させて下さい
 誰かの為に何かが出来るのなら、それは私のためになるから

 夢見た先に続く物語

「夢追い散りゆく愚かで羨ましい人の物語。誰かが何かに語りかけるのならば、私はいっそ世界を滅ぼして上げよう。罪人の世界の中から、閉じ込められた人は反乱を何時か起こす」
「例え何年掛けようと、例え何百年かけようと、最高にして最悪の一手を打とう」
「それは君らが私らにしたことに対する、代価」
「復讐と呼んでくれても構わない。どちらにしろ、僕たちのやることは変わらないのだから」
 二つの影は交錯する。
 着々と準備を進める。あの時交わした会話がふと蘇る。
 もうすぐ、もうすぐだ。
 最期の可能性にかけ、最期の一手を生むための――

「あはははっ、さぁ残り少ない時をせいぜい謳歌することだね」
 
 全く持って性質が悪いと自重する。自分の本性は所詮隠しきれない。
 いつか廻り会えるのならば、いつかその時があるのならば、何を謳おう。何を奏でよう。
 永遠のない導きの中で悠久を求めていく“矛盾”
 巡りまわる時空の中で人は一体いくつの雫を見つけることが出来るだろうか


+++
「さて、行くか」

 虚から等身大の人形を受け取った炬奈は大切にそうに背中にリュックのように背負う。虚が人形を丁重に包んでいるそれは包帯だ。まるで人が入っているようなそれ――

「え? もう行くのか炬奈」

 現在時刻は夜といっても夜中の一時を回ったころ合い。依頼主に行くといっても褒められる時間帯ではないし、普通はもう就寝している時間。その時間に炬奈は行く、と言っているのだ。

「遊月は気になるのだろう? 是が一体何を意味しているのか」
「そりゃ、気になるが。普通はこんな時間に行ったら迷惑だろ?」
「さぁ、それはどうだろうかな。相手とて一秒でも早く会いたいはずだ。問題はないさ」
「……会いたい?」
「着いてきたいのか、寝たいのかはっきりしろ」
「行くさ。それに時間は浪費しないに越したことはない」

 自分たちの目的は、目的を達成するための手段を作り上げ、そして再び罪人の牢獄に赴くこと。自分の心臓を取り戻す為に、復讐を成す為に。
 其々の目的が違えど、目指す先が同じだから、手をとりあった。
 朧埼は眠たい目をこすって立ち上がり炬奈の後に続く。遊月も残っていたお茶を飲み干し、コートを羽織る。

「唯乃、行くか」
「主の仰せのままに」

 慌ただしく日鵺の家を後にする。


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