零の旋律 | ナノ

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「朧埼、何をやっているんだ」

 突然の来訪者よりも、今目の前で湯呑を落した朧埼の方に視線をやっている炬奈には、虚の登場など視界に入っていないようだった。

「だ、だって姉さん! 虚が勝手にいきなり入ってきたんだよ!?」
「虚が突然なのは何時ものことだろう」

 慌てる朧埼に虚は実に楽しそうに口元を緩める。

「おやまぁ、ひさしいねぇ。朧埼。生意気度がさらに上がった顔をしているねぇ」
「るっさい! つかお前は毎回毎回姿を現す度になんで容姿が同じなんだよ!!」
「ふふふ、相変わらず落ち着きがないねぇ、もっと心にゆとりを持つことを私は推奨しよう」

 朧埼をからかう虚だったが、その会話はそれ以上続くことはなかった。

「は? っておい、虚……じゃなくて朧埼。お前今なんていった?」
「はい?」
「毎回容姿が変わらないって聞こえたんだが」

 遊月の疑問に、朧埼は遊月が疑問に感じたことに納得した。それは自分自身不思議に思っている出来ごとの一つであり虚の謎の一つ。唯乃はただ無言で現状の様子を伺っている。唯乃にとって主の敵となる人物であるなら、殺すだけ。

「俺が最後にあったのは十四の頃なんだ。だから二年前か。それなのに容姿が一切変っていないんだよ」
「普通、二年もたてば何かしら外見的変化はあるよな……?」
「遊月もそう思うよなぁ」
「まぁ……術とかで外見的変化を変える事は可能だが……」

 罪人の牢獄という異質な空間以外でやれば怪しまれてもおかしくはない。遊月は銀髪の容姿が何年も変わらない事を知っている。それでも虚に対しては疑問がわく。二人の疑問に対して虚は可笑しそうに笑う。

「私に興味があるようだねぇ。私は人形師だからだよ。そして二年という歳月はそれほどの差を表すものではない、と私は思うけれどもねぇ」
「お前は二年以上前からその風貌のままだろうが」

 横やりを入れるように炬奈が口を挟む。いたって冷静だ。

「そうなの!? 姉さん!」

 朧埼が虚と出会ったのは二年前。しかし姉炬奈はそれ以上前から虚と親交があった。だが、だからといって――と朧埼が口を挟む前に炬奈が口を開く。

「私にこの人形師を紹介したやつが、最初から怪しいといっていたからな」
「誰から紹介されたんだよ……姉さん」
「銀」

 端的に答える炬奈に朧埼は納得する。確かに彼の紹介なら、と納得出来たからだ。

「まぁそんなことは些細なことだよ。私は人形が完成したからお届けにあがったにすぎないしねぇ」

 誰かが求め続ける限り、人形は増え続ける。
 何を持ってして、何を得るために人は人形を求めていくのか。
 人形が人形であるならば、人は人に何を求め人形に何を縋るのか。
 その先にある道筋には何が待ち受けているのか
 ――その先を私に見させて下さい。
 先の見えない奈落の闇の中で僅かに垂れる希望の糸がやってくることを祈り
 ――いつかその命。迷宮の扉を叩く前までに貴方が望んでしまったものの結末を聴きましょう

 何処かに旅立つ小鳥は何処からか前戻ってくる。
 時空の枠を飛び越えて

「例え誰かに夢だと言われ続けようとも、私の最後の望みは誰にも邪魔されないよ」

 夢追い儚く消えていく泡
 静かに道化していく闇の音色
 奏でよ、我に
 奏でて舞踊れ

 術式を演唱する 彼の者はあるものを求めて
 光輝く方陣を描き、言葉を紡ぐ――


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