零の旋律 | ナノ

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 日鵺家の屋敷。いくら日鵺が表向きは滅んだことになっていても、日鵺が復興中だとしても、その屋敷は通常の何倍もの広さを誇っている。しかし修繕が完璧には終わっていないのだろう。所々に痕跡が伺えた。それに遊月は気がつきながらも、あえて何も気付かなかったように振舞う。

「いいのか? 俺らが泊っても」
「別に構わないさ。何もないところだが、部屋だけは余っているからな。それに気になっているんだろ?」

 普段無表情な炬奈にしては珍しく楽しげな表情をする。

「あぁ。あの人形師がどんな人形を作るのか、興味がある」
「あいつの作る人形は非常に精巧だよ。精巧すぎて嫌になるくらいにね。さて、あいつは二日、といっていたな。ならば明日の夜を待つか」
「今日を一日にカウントしていいのか?」
「あいつはそういうやつだから、明日の夜って意味なのさ。紛らわしいだろ?」
「あぁ、あの人形師がどんな人形を造ってくるのか気になってな。」
「あいつの造る人形は非常に精巧だよ。精巧すぎていやになるくらいね。それに、もう直ぐ日付が変わる。約束の日だ」

 炬奈は不敵に笑った。

「これで終わりさ」

 意味ありげに呟く

 巡る廻る時空の中で張り巡らされた幾百の黒い線をそっと掴む
 静かに鼓動した核は一つ一つ崩れ去って言って
 新たな形を生み出していく


 虚が人形を届けると言った当日の夜。

「……!? 誰かが侵入したか?」

 炬奈が遊月たちに虚は真っ当な時間には人形を届けに来ないといい、夜中にリビングで待機していた。
 特にやることもなく、朧埼がいれたお茶と和菓子を食べながら談笑していた時だった、遊月が屋敷に普段はないはずの気配を感じる。

「虚ではないのか?」
「いや、あいつとは何か感覚が違うような……いや、一度しか会っていないから確実的なことは言えないのだが」

 言葉を濁す遊月に炬奈は顔を顰める。朧埼が窓に近づき、カーテンの隙間から外の様子を伺うが、裸眼で確認できる範囲には人影は見当たらなかった。

「誰もいないけど?」
「いえ、誰かこの屋敷に侵入したみたいですね、それがその人形師なのかはわかりませんが」

 唯乃はお茶を口にしながら、表情一つ変えずに告げる。

「……虚だろう。恐らくは。今この屋敷に入ってくるモノ好きは怱々いないからな。それこそ私が人形を依頼した虚か、私の知り合い程度のものだ」


 夢追って儚く散っていく
 ――あぁ、これが私の現実、これが私の未来
 夢追って舞い散る花弁は静かに小瓶の中の砂と一緒に隠れていく
 ――これが、私の夢の先。私は現実へと引き戻される感覚の中で少年を見る。虚空を創り出す彼の力にて

「夢を追いすぎて、現実が見られなくならなければ、貴方は失わずに済んだ」

 さぁ、後の祭り事、今更の言葉と今更の忠告
 何もかもが今更だ、あぁ、愚かしい


+++

「駄目だねぇ。戸締りはしっかりしなきゃ」
「!?」

 扉の開く音は一切しなかった。風も靡かない。でも人形師は確かにその場に姿を現した。
 扉の開く音は愚か、足音も気配も遊月や唯乃ですら一切感じ取れなかった。
 唐突に現れた人形師に驚き、手に持っていたお茶を零しそうになる。しかし遊月がお茶を零しそうになるよりも先に、地面に湯呑が落ちる音で目が覚める。


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