第三話:操られる 音がしない。静寂なる空間。 一つの声が静寂な空間を破る。 「此処に、いるのだろう?」 黒髪の少年――千歳(ちとせ)は淡々と目前にいる男に問いかける。 けれど男から返事はない。目の前で起きた惨状に思考が回らず、恐怖が身体を支配していた。 口を開こうにも出てくるは震えた言葉にならない声。 「……何も答えてくれないんだ。まぁ自分で確かめるからいいよ」 男には目もくれず、千歳は前に進んでいく。もはや男の存在は視界からも、記憶にも入っていない。 ただ、目的を遂行するため、ただ、目的を手に入れる為に動く。 +++ 「あ、姉さん!」 夢現を後にした後、遊月を誘い日鵺の屋敷に戻る最中、街中で呼びとめられた。 その声は何時も聞いている炬奈にとって唯一の家族の声。 振り返ると、後方から朧埼が走ってきた。その隣には唯乃もいる。 「朧埼、お前外出していたのか? それに唯乃まで一緒とはどういうことだ?」 普段なら、屋敷の中で暇つぶしをしていただろう、朧埼が外出していたことに多少なりと驚く。 密かに気になったのは、朧埼が手にしている袋の中身だ。ラッピングから見て、ぬいぐるみを買ったんだな、と微笑ましい気分になる。 その様子を遊月が、普段は冷静なのに、弟のことになるといつも簡単に変ってしまうものだなと感じる。 そして視線を唯乃に映す。 「唯乃、お前今日はどっか用事があるんじゃなかったのか?」 「用事が済んだので、主を探している時に朧埼と出会いましたので一緒に行動していました」 「そっか」 「えぇ」 一度掴んだ手を離したら空高く儚く飛んで行った。 失いたくなかったのに、守りたかったのに――失うばかりか守れも出来なかった。 最後の言葉を伝えたかったけれどそれはもう叶わなかった。 +++ 「やっぱり似ているね。彼女の元はこれというべきかな。どう思う? 私の愛おしい人形たちよ」 人形は夢と現実の挟間で彷徨い虚ろなる魂を嘘の器で満たしていく 溢れることがあっても欠ける事があっても決して満杯にはならない杯の器で人形は佇む いつか、虚ろなる魂を満たしてくれる存在を意義を意志を―― 「何かを求め続けるなら、何かを得たいのなら、私は一体何を差し出せばいいのだろうね? この人の流れるときのなかで、星が輝く夜空の中で」 悲痛な瞳を夜空へと移す [*前] | [次#] TOP |