零の旋律 | ナノ

W


 静かな反乱は水面下でやってくる。復讐という厄介な動機を下げて彼は駒を使い動く
 彼は彼の者に復讐をするために駒を揃えていく
 一つ一つ厳選した優秀な駒を見つけていく
 また一つ彼は駒を手に入れた。

『たった一つ信じていたものがこの世界であった。たった一つだけだったけど、その一つがあればそれでよかった。それだけで私は生きていけたから。そのたった一つが今は何もなくても偽りの流れだったとしても。思い出だけは一生残ってしまうからだから、だから――私は思い出という名の厄介なものを片づけるために、過去の出来事に清算をつけるために動きます』

+++
 虚以外立ち入り禁止の場所に虚が入ってから数分後、再び炬奈と遊月の前に姿を現す。

「材料はあったから人形は作ってあげよう。何時も通り報酬はいらないよ」
「は?」

 首を傾げるのは遊月。

「ふふふ、それがお得意様との商売というものさ」

 虚は嘲るように笑う。

「(普通は依頼したから……料金をとるよな? お得意様ならなおさらのこと……のはず)」

 屋敷の外を見る限り虚の人形は精巧で精密な造りをしている。遠目から見ただけでは人との区別がつかない程に。そんな人形を作るのならばそれ相応の額が必要になるのでは、遊月は疑問がわく。

「君は初めてだから予想外に感じるのかもしれないけれどもねぇ。私は人形を注文した奴からは料金をとらないよ。私にとって通貨とは必要最低限があればいいものだからねぇ」
「そ、そうなのか」

 遊月は何と返答していいかわからず曖昧に頷く。

「そういうことさ、それがこの夢現という店なのだよ」
「……」
「それに私は別段食事という行為を必要とするわけではない」
「それってどうい……」

 遊月は虚の言葉の意味を理解出来なかった、追及しようとしたが虚の右手が遊月の口元を軽く塞ぐ。悪戯っぽい笑みで言葉を付け足す。

「ふふふ、これ以上は内緒だよ」
「……なら何故俺にそんな事を最初からいう?」
「それはね」
「それは?」
「相手に謎を与えるという行為が楽しくて仕方ないからだよ」

 ――狂っている。
 遊月はそう感じた。肌で、虚の笑みに背筋が凍る思いをする。初対面の相手だったが真っ当な印象は何一つ抱くことはなかった。

「人形が出来るまでには二日程度日数を要するだろう。だから完成したら此方から日鵺の屋敷に赴くよ。では日鵺、またのお越しを」

 虚は最後に一礼して、再度虚以外立ち入り禁止の場所へ戻って行く。これ以上此方に姿を見せるつもりがないのだろう、要件が済んだから帰りなと無言で語っていた。
 炬奈と遊月は虚の態度に従って夢現を後にする。もとより長居する予定はない。異彩の空間だ。


 欲しいものは自力で手に入れる
 例え、そのために手を朱に染めようとも


- 147 -


[*前] | [次#]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -