零の旋律 | ナノ

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「日鵺の依頼ならどんな人形だって作るさ、さてはて日鵺は一体どんな人形が好みかな?」

 人形師は不敵に不気味に奇妙に笑う。その笑顔すら作りもののように。
 肩までで切り揃えられ、一房だけは長く膝まで伸びている。銀色の髪の毛は光沢があり輝くようだ。
 容姿は整っていて見方を変えれば美人とも美形ともとれる。
 二十代中ごろの男性ともとれるし、長身の女性ともとれる容姿は、容姿だけならば男女関係なく好かれるだろう。しかし人形師は何処か人を寄せ付けない雰囲気を放っている。背中には人形師より小柄な人物――恐らくは女性人形を彷彿させる包帯に巻かれ赤い紐でとめられている何かがあった。
 黒い帽子を被り、左右には薔薇の飾りと布が巻かれている。上下黒いスーツに身を包み袖口からはワイシャツのフリルが出ている。

「人形を作ってほしい」
「日鵺が此処に足を運ぶのはそれ以外考えられないしねぇ。それにしても懐かしいね。二年ぶりかい?」

 嘗て――同じように日鵺炬奈が人形を依頼してきた事を虚は懐古する。

「あぁ。こういう人形を頼む」

 茶色い封筒を炬奈は虚に手渡す。

「おやおや、変ったものを欲しがるんだねぇ」

 虚は楽しそうに云う。茶色い封筒の封を切ることもなく上着のポケットの中に無造作に放りこむ。まるでそれは――封筒に用がないと言わんばかりに。
 その様子に遊月は中身を確認しなくていいのかと疑問がわく。この人物は自分の予想の範疇を軽く飛び越えている――それこそ罪人の牢獄と大差ない程に違和感がない。

「所で、今日は朧埼君はいないのかい? 彼なら身長もまだたいしてなく小生意気な餓鬼だろう? いつものごとくからかってあげようかと思っていたのだけれどねぇ」
「朧埼を連れてくるとややこしい事になるから置いてきただけだ」
「そうかい、残念だねぇ」
「残念だと思っていない癖に、残念だと言うな。とにかく私は人形が欲しい」
「いやはや、全く持って生意気な餓鬼だこと」

 虚は苦笑しながら四方の一角に包帯に巻かれ背中に背負っていたそれを大事そうに置く。

「生意気だろうがなんだろうが、是が私だ。それに此方は客だ」
「まぁお客様の我儘を忠実に再現しなければいけないのが面倒な所だよねぇ。まぁ信頼第一かい? どうでもいいけれど。それより先ほどから気になって気になって仕方がない事があったのだが――そちらさんは誰だい? まさか日鵺の彼氏とは云わないよね?」

 今まで置いてきぼりをくらっていた遊月に虚は話を振る。
 まぁそんなことは天地がひっくりかえってもあり得ないだろうと最後に付け加える。

「おい、大分失礼だな……。俺は唯の同行人だ」
「だろうねぇ、彼氏なんていたら朧埼が鬼の形相をしながら襲いかかるだろうね。まぁ私としてはそのような展開も面白くて期待するところなのだが。考えてもごらんよ。凄く見物じゃないか。……よし、日鵺。君は今から彼氏を作るんだ」


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