零の旋律 | ナノ

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 罪人の牢獄を出て以降、一度も再会することがなかった二人は偶然の再会を果たした。現在の情報交換と現状の説明をするために、炬奈と遊月は一度喫茶店でお茶をする。立ち話を、混んでいる時間帯の外でするのは好ましくないということでその選択になった。
 煩いのを好まない炬奈と遊月は商店街から離れこぢんまりとしている喫茶店に入る。予想通り中は物静かで、時折飲み物を入れる音がする程度のような雰囲気の店。
 そこで、遊月は紅茶と粉砂糖を炬奈は珈琲をそれぞれ注文した。

「そういえば、今日は朧埼と一緒ではないのか?」
「そういうお前こそ唯乃とは一緒ではないのか?」

 日鵺朧埼は、日鵺炬奈の実弟であり唯乃沙羅は、遊月を主と決めつき従い自らを人形と名乗る女性
 二人は常にお互いがお互い大切に思っている姉や主とともに行動をしている。

 それは、罪人の牢獄で出会ったときから変わらないこと
 否、出会う前から変わらないこと
 そんな二人が傍らにいない、二人は不審に思いお互いに聞いたのだった。

「今日は用事があったから、朧埼とは別行動をとっただけだ。朧埼が一緒だとあいつに突っかかるから面倒なんだよ」
「ほー、つまり用事をさっさと済ませたいからおいてけぼりに朧埼はされたってわけか」
「まぁ、そんなところだ。でお前は?」

 炬奈は珈琲を口にしたところで、すぐに離した。アイスを頼まなかったため、ホットだった。しかしそれを忘れ軽く口に含んだ時点で飲むのを止めた。
 炬奈は猫舌で熱いものは冷めるまで飲めない。

「俺は、唯乃に付近の散策を頼んだんだ、あいつならてっとり早いからな」
「……なるほどな」

 炬奈は辺りを主の命によって散策している姿を思い浮かべる。
 遊月の人の足で歩くよりか周囲を見回すのには唯乃は最適だと炬奈は思う。

 ――主のためならば何処までも。例え地平線の彼方を探せと言われても、私は探しましょう

「私は、今日は人形師に会いにいく予定でね。その人形師を朧埼は大嫌いなんだよ。変人だから」
「成程って……はっ? 変人? つか人形師?」

 遊月の頭の中で疑問がわき上がる。

「そうだ、人形師だよ、人形師“人形を作る者”だ」
「いや、それくらいはわかるっての」

 遊月にとって人形師がわからないのではなく、その人形師のもとへ炬奈がいく理由が謎だった。
 まさか炬奈が人形を買い求めるとも想像が出来ない。
 否、したくない

「お……お前、人形を買うのか?」

 疑いの眼差しと驚きの口調が混じったような素振りで問う遊月に、炬奈は眉を顰める

「あぁ」
「!?」

 一瞬、テーブルが揺れた気がするのは、気のせいだろうかそう思って炬奈はテーブルを見ると、まだ飲んでいない遊月の紅茶が僅かに波紋している。
 揺れたのは気のせいではなかった

「何をそんなに驚く?」
「だって、お前が……人形だぞ、人形。そんな愛らしいのは似合わないっ! つか、なんだ気持ち悪い!」
「大分失礼だな。私をお前はなんだと思っている、第一私が使うわけではない!」

 今にも机を叩きそうな勢いの二人
 だが、そんな二人を止める誰かは誰もいない
 お互いのパートーナは今いない。そして店の中にもそれを止めるような人は存在しなかった。
 傍から見たら痴話喧嘩にしか見えないだろう。
 恋人同士の喧嘩の解決は当人たちに任せようと、知らぬ存ぜんを決め込むのもまた、厄介事に巻き込まれない為の対策――かもしれない。


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