零の旋律 | ナノ

第一話:再会


 街の喧噪を炬奈は鬱陶しそうに商店街を歩いていく。整った町並みで繁栄している商店街、それは中央に比較的近い街だからこそ、ともいえた。
 夕方は特に人が沢山買い物に出かけてくる。早く人の気配がする場所から離れたいのか、その足取りは速い。
 炬奈は是からある人物に依頼をしにいく途中だった。依頼を遂行するために必要な人物ではあったが、炬奈自身は気が進まない。用事の事を思いだすと足取りが重くなる。 しかし、喧騒のある街に長居するのも煩わしい。

「全く、こんなところで時間を消費するわけにはいかないのに」

 炬奈は先日ある依頼を受けた。炬奈は基本的に有益なことと弟にしか興味がない。しかしそれには例外だって存在する。
 依頼を受けたのは有益だから、というわけでもなかった。
 有益かもしれないが、有益ではなくなるかもしれない、そんな不確かな依頼。
 それを受けたのは簡単でそれが日鵺を繋ぐかもしれないから。復讐に一歩進むかもしれないから。だからこそ不確かでも受けた
 だが、その依頼は想像していたよりもはるかに面倒なもので、炬奈としては一刻も早く遂行したかった。

「ん? おい、炬奈か?」

 商店街を歩いていた炬奈に後ろから呼びとめる声が一つ。炬奈にはその声に聞き覚えがあった。一旦は別れ、再会することを約束した人物。

「何故こんな場所にいる? 遊月」

 それは罪人の牢獄で出会った一人の青年の声。
 炬奈は後ろを振り返る


 罪人の牢獄、それはこの世界に存在して
 この世界の常識から外された罪人達が生きながらにして放される場所
 この世界の法則から逸脱したものが送られる場所で出会った
 それは偶然なのか必然か。
 罪人の牢獄という場所で暫くの間彼らは行動を共にする仲間となった。
 そして、一か月前に罪人の牢獄から生きて外界世界に戻ってきて再び離れた。
 目的を叶えるために、目的を手に入れるための手段を探すことを誓って。

 あの時、万全を期したつもりで、まだ爪が甘かった。想像以上の場所に、準備不足と知識、そして経験不足を感じ取り、一時罪人の牢獄から脱出した。
 来るべき時に向けての下準備を整えるのために。


+++

 ――見つけて見つけて見つけて、それは私の最後の遺言

「ちっ……」

 彼の者は悪態をつく。
 予想外に訪れた訪問者からの攻撃を交わすべく右へ跳躍していく
 空中で一回転をすると、そのまま、トンっと音を立てて両足で着地していくその動きは華麗で迷いのない動きは一種の舞のようだった。
 腰まである流れるような銀髪が宙を揺れる

「いきなり何故ここにやってくる!?」

 彼の者は訪問者に問いかけをする
 僅かに焦りが感じられる声で、しかし返ってきた答えは答えではなく問いだった

「まさか、貴方様がそこまでの動きを見せるとはね」

 不敵な笑みを見せながら彼の者を殺そうとしていた銀色に光る短刀を懐にしまう

「また、来ます」
「二度と来るな」

 訪問者は彼の者に背を向けて岐路へとついた

「ふ……ふざけるなっ」

 彼の者はそれだけを呟くとその場に倒れた
 血ぬられた床とかす。


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