Y 篝火たちは一旦外に出る。出た処でタイミングが丁度良かったのか、図ったのか栞と朔夜が前方から歩いてきた。遠目からでもわかる程、朔夜の機嫌が悪かった。いつもより大股で道を歩いている。今の朔夜に声をかけたら、問答無用で焼き焦げそうな勢いだった。 寝起きだからではない。理由は一人だけ崩落の街に連れて行ってもらえなかったからだ。何があったのかも恐らくは詳しく説明されていないのだろう。栞は肝心なところまで語らないことが多い。 「おはよー」 朔夜の機嫌が悪いことを知っていてもなおも普通に接してくる栞は神経が図太いのかも知れない。 「はよ」 「おはようございます」 「おはよう」 「はよ」 「はよーってえぇ!?」 榴華の時は唯乃だけだったのに、栞の時は全員挨拶したので榴華は肩を落とす。自分の扱いぞんざいじゃないかと。 「朔夜お帰り」 篝火が声をかける。朔夜は一瞬言葉で表しにくい表情を浮かべた。 「あぁ、ただいま」 何処か不貞腐れているのが一目でわかった。それを可愛いなと、密かに炬奈は思ってしまう。 「じゃあ、私たちは一度此処を脱出する。いつになるかはわからないがまたこの牢獄にやってくる。目的を達成するためにな」 炬奈は力強く言う。 「ん、じゃあまたな」 篝火は軽く手を振る。協力をすると決めた。だからまた彼彼女らがこの地にやってくるなら、篝火は協力をする。それは朔夜も同様だった。例え――泉の知り合いでなくても。もうそんなことは篝火の中では消え去っている。 「俺たちも当分はあっちに戻って準備をする。色々力不足だとわかった。今のままじゃ俺は俺の目的の品を手に入れることが出来ない。だから、手に入れるようになったら又来る」 「私は主と何処までも共に行動をします。それなので主がこの地にやってくるというのでしたら私はそれにつき従うまで」 遊月と唯乃の言葉。信念を感じる言葉に篝火は複雑な心境を抱いた。何故か、現在の篝火にはまだわからなかった。 「じゃあ、また」 朧埼もそういった。 「そういえば、榴華お前はいいのか? 俺と唯乃を殺すことが目的だったんじゃないのか?」 最後に遊月は榴華に問う。榴華の目的は不法侵入者を抹殺すること。けれど結局抹殺なんてしなくて、しようとしたのは最初の出会った時だけで、それ以降は自分たちに協力してくれた。協力したつもりはなくても、結果的に協力した、と言わざるを得ないだろう状況。 「ん? あぁ、別によいよん。それは。自分に、いや俺にとって害があれば殺すつもりではあったけれど、別に今のところ害はなさそうだから放置しておくだけだ。もしも是から先俺にとって有害な人物であれば、俺は牙をむく。それだけだ」 偽りではなく、飾りではなく、本心で本性で榴華は説明した。結局のところ榴華が彼彼女らに牙をむかなかったのは有害と判断されなかった。それだけ。 もしも榴華が危険性を感じ取ったのなら、その場で榴華は殺しただろう。例えこの場で、一時の別れの場であったとしても。 「そうか。じゃあな」 遊月の言葉を合図に、炬奈は紅い球を取り出す。それは紅い光を生みだし、地面に魔法陣を描き始める。不思議な光景であった。魔法陣が一つ一つ完成に近づいていく。 そして完成した時、魔法陣の中にいた、彼彼女らは一様に姿を消した。この、一度はいれば二度と出られないといわれる罪人の牢獄から脱出した。 朔夜は何か不思議な気持ちだった。一番の原因となる場面を朔夜は体験していない。 それでも朔夜にとっては何か思うところがあった。朔夜はまだその気持ちに整理をつけられていなかったが。 「ネオ、今度は俺の前から勝手にいなくならないでくれよ」 もう姿見えなき友達に語りかける。 [*前] | [次#] TOP |