X 「鳶祗家で、私はまぁ色々学ばせてもらったよ。私自身気配だけで物事を判断しなければならなかったからな」 「因みに、炬奈。お前はこの程度の暗さで眼帯を外し、槍を持って戦うのと、気配だけで戦うのどちらが得意だ?」 「さぁな。けれど、そんなことは関係ない」 そんな機会はないに等しいと炬奈は付け足す。訓練ならまだしも実戦でそのような状況化になることは少ない。ましてやいつ明りが来るかわからない状態。暗く続くという確証もない限り炬奈は眼帯を外すことは出来ない。 「別に普段のことで日常生活には何も支障はないし。まぁやはり見えていた方が私としては多少戦いやすいのかもしれない。私には外見を判断することが出来ない」 外見的に何か、戦闘局面を左右するようなものがあったとして、炬奈にはそれが判断出来ない。明るい場所では。 「その為の朧埼が」 「それだけではない。朧埼は元々戦闘面が不得意なのだ。だからこそ私の後にいてもらわなければ困る。私にとって唯一の肉親なのだから」 守るために武器を手に取った。 それだけ。 「そうだな。悪い、寝ているところ長話をさせてしまって」 「構わないさ。別に困るような過去ではない。ただ……私が眼帯をしている理由は、気付いていないものには話さないでほしい」 知らないのなら、知らなくていい。炬奈はそう付け足した。遊月は了承した。別に拒否する理由もない。 遊月は静かに部屋を出て、布団に入り眠りにつく。朧埼も篝火も熟睡していて、起きていた様子はない。 炬奈はベッドの中で今後のことを考えながら、欠伸をし、間もなく眠りに入る。 翌朝、炬奈は寝不足だった。それもそうだろう、途中で遊月に起こされたのだから。 寝起きの炬奈を起こしたのは弟である朧埼だ。 「毎日やっているのか?」 「うん」 篝火の言葉に普通に頷く朧埼に、炬奈をある人物と比べてしまう。 「御苦労さま」 「別に姉さんを起こすのは俺が好きでやっていることだから、そんなこと言わなくていいよ」 「そっか」 朧埼と篝火は台所で朝食を作っている。その間唯乃はまだ寝ている遊月をたたき起していた。主と呼び付き従っている割に起こすのは大胆というか乱暴だった。 遊月は痛そうな顔をして目覚めている。けれど、二度寝はしないだろう。それこそ次寝たら唯乃がどういった手段で主を起こすかわからない。 朝全員が朝食を食べ終わった後、扉が開く。そして篝火にとっては誰だか判断出来る特徴的な足取りを耳にする。 「はよーさん」 そして現れたのは篝火の予想通り榴華だった。 長い赤毛は一部の髪の毛左右で編み込みにして、それを後ろで纏めてポニーテールにしている。 さりげなくこっている髪型だった。そして服装は赤いワイシャツに黒いズボン。ワイシャツは肌蹴ていて、肌蹴ている部分からはネックレスが二重につけられている。他にも指輪やアクセサリーが散りばめられている。何処か軽薄そうな印象を与える飄々とした姿であった。 「おはようございます」 唯乃だけが丁寧に返事を返した。しかし他の人が誰も返事しないのを見て 「あれ? 此処は無視するべきでしたか?」 と首を傾げた。罪人の牢獄支配者には到底及ばないが、榴華の扱いも中々なものであった。 [*前] | [次#] TOP |