零の旋律 | ナノ

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「朧埼の眼帯は?」
「朧埼の方は奪い取られた。翡翠の力を持つ朧埼の力を奪い取るために。瞳に宿る力は結構あるんだ。朧埼は最盛期の半分程度しか今は治癒の力を持っていない」
「あれで半分だと……」

 あの場にいた味方全員の傷を一瞬で治療してしまい、さらには意識不明だった千朱の怪我も治した。それだけでも驚異的な力を持っていることは、一目瞭然だ。素人だってわかる程に。
 なのに、それでも最盛期の半分の力しか持っていない。

「まぁ、別に瞳が原因で力が半減しているわけではないぞ……一因ではあっても。原因は別にある」
「別に?」
「あぁ。朧埼は潜在的に、無意識に力を抑えてしまっている。自分でそれに気がつかないほどにな」
「どういうことだ」

 問うのは目的のためとか利用するためじゃない。

「想像はつかないか? 日鵺家を滅ぼされた時。原因は朧埼を狙って。さらにいえば、日鵺家が滅ぼされるあの日、あの場所に朧埼はいたんだ。けれど、日鵺家は私と朧埼を除いて滅んだ」

 それは――無力と自分に嘆いたのか。無力だと、姉以外否、姉を含めて誰も助けられなかったと。
 強力な治癒の力を保持していても、それが唯一の使用者だとしても、結局みな死なせてしまったと。
 何も役に立たないじゃないか、と、こんな力がなければ日鵺家は滅ぶことも、姉を苦しめることも何もなかったと。
 力なんて必要ないじゃないかと――願ってしまったのだろう。願ってしまったからこそ、無意識に力を抑えるようになった。それは朧埼の潜在的な意識の元、本人が自覚していない無自覚の領域で、深層心理の部分で。遊月はそう想像する。

「それでも半分」

 全てをそれでも朧埼は抑えることは出来なかった。

「あぁ、半分だ」

 力を自ら封印していることを朧埼は知らない。

「……そりゃ、いっちゃ悪いかもしれないが、喉から手が出る程欲しかっただろうな」

 誰がとは言わない。
 朧埼の力を欲する者など、例をあげるだけ多すぎる。
 もし、治癒をする術を自ら手に入れることが出来れば、どれ程有効に物事を運べるだろうか。
 自ら手にいれることが出来なくても、朧埼を有効活用することが出来れば有利に物事は運べる。

「あぁ。沢山いたさ。そのために……あの事件の後、表向きには日鵺家は全員が死んで滅んだことになっている」
「そういや、そうだな。俺もまさか日鵺に生き残りがいるとは思っていなかった……半分程度な」

 半分、半信半疑な状態だったからこそ、すぐに二人が日鵺家の人間だと合点が遊月にはいったのだ。

「半分か。まぁいいだろう。その後私たちは暫く治療のため、医師の元にいた」

 その後は一体どうしたのだろうか、遊月は考えるまでもなかった。

「さらにその後は鳶祗家にでも匿われていたか?」
「あぁ。ご名答だ」

 四大貴族が頼るとしたら。そして分家を含めて滅ぼされた日鵺家が最後に頼るとしたら鳶祗家しかない。
 四大貴族残り二家は、例え頼まれたとしても一刀両断して切り捨てるくらいの非道さを持っているだろう。それこそ、先刻の話を聞く限りは。
 だからこそ、鳶祗家とすぐに結論が出た。


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