零の旋律 | ナノ

V


「あぁ」

 半ば予想がついていたのだろう。炬奈は驚きもしなかった。ただ肯定するだけ。誰にも気がつかれないように会話は自然と小声になっている。

「よくわかったな」
「色々違和感があったんだよな。些細な違和感なのかもしれないが。色々と朧埼が説明していたから。それと、暗闇での自由な動き、いきなりの明るくなりあの榴華ですらも動けなかった現状でお前だけ動けた。それは瞳を瞑っていたからではない。最初から瞳をあの時炬奈は開けていた」

 遊月が炬奈を咄嗟に支えた時に炬奈は平然と目を開けていた。遊月ですら眩しくて顔を顰め、ようやく周辺を認識出来る程度に視界を広げていたというのに。
 そこで気がついてしまった。炬奈が暗闇や明りを平気なのは、最初から見えていないからだと。視界に頼っていないからこそ、突如の明暗の差にも対応出来る。そんなものは関係ないから。

「成程な。まぁそれでも気付かれるとは思っていなかったが。それでもお前が態々私の元へ訪ねてくるならそれしか原因がないとは思った」
「朧埼は知っているんだな?」
「あぁ。勿論だ。あいつが料理上手なのは私の為だ。もっとも昔から得意と言うわけではないしな」

 苦笑いを炬奈はする。

「……今は暗いか?」

 炬奈の問い。何が言いたいのか理解出来なかったが遊月は答える。暗いと。
 いくら灰色の曇天が広がっている。しかしだからこそ、光が差し込まないこの場所で、カーテンを閉めれば僅かな明すら遮られる。この空間はこの部屋は確かに暗かった。光はない。電気を遊月は当然ながらつけていない。

「そうか、ならば問題ない」

 そういって炬奈は眼帯に手をかけ――外した。遊月の姿をしっかりと“捉えて”微笑んだ。

「お前は、そういった容姿をしていたのか。初めまして」

 初めて姿を見たから初めまして。

「どういうことだ?」

 眼帯をしていた方の瞳、この暗闇で視界があまり聞かない中で見る限り別段異常も怪我をしているように見えなかった。左右なんら変わりがないように見える――否、眼帯をしている方の瞳の方が光をともなっているように映った。

「私は全く見えないわけではない。眼帯をしている――つまり、右目の方は見える」
「なら、何故……まさか、光か?」
「ご名答。私の右目は……極端に光に弱くなってしまったんだ。この程度の“明るさ”ならば支障はないがな。光を遮断するために、私は普段眼帯をしている。光を強く浴びればこの右目とていずれ視力を失うだろう」
「……日鵺家の事件の時の後遺症か?」

 遊月は深い所まで尋ねる。後悔はしない。尋ねると決めたから。炬奈はそうだなと一度頷いてから語った。

「あの後、辛うじて生きていた私は、左目は視力を失った。右目は視力を失うこともなかったがその変わり光を受け付けなくなった。医者から言われた。光を見ればいずれ視力を失ってしまうと。だから私は見える方の瞳を保護するために、見える瞳を隠したんだ」

 だからこその眼帯。恐らくは光を完璧に遮断するために特殊な素材が使われているのだろうと判断する。


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