第一話:牢獄への来訪者 慈悲深い心など、この地には存在しない。 思うだけ、願うだけ、不幸になるだけさ だから、私は何も願いはしないよ。 何かを探し求め、罪人の地に自ら望んで足を踏み入れる 「姉さん、これは何?」 声が微かに聴こえる ――いけるか? ――女と男の二人組だ ――男は小奇麗な顔をしているぜ ――ひゃはははははっひゃはははははっひゃ ――不釣り合いな格好だ。一体何をやらかしたんだか ――久々の獲物だ ――売って、売って、貢いで貢いで ――さようならさようなら、跡形も残さないよ 『ひゃはははははしゃはははひゃははは』 狂って狂って間隔を忘れて ただただ、生きるためにヒトは動く、 それが残された一筋の絶望の中の光 「さぁ、愚かな罪人へいこうぜ」 誰かが合図をする。 狂喜に満ちた瞳を輝かせながら進む。 「……朧埼、少しその場にいろ」 廃墟の地、濁った灰色の瓦礫の上に二人の男女が立っていた。 周りにある古びた廃墟の建物が立ち並ぶこの場所には、不釣り合いな高貴な服装を二人は身に纏っていた。 そういった人物は、廃墟の場所では賊のいいかもにされる。 二人の周りにも例外なく、建物の中から外へとやってくる。 扉がなく、開きっぱなしの建物から、この地に転がっていたであろう鉄くずを武器にしたのを手に携えた輩――6人に回りを囲まれた。 「げっ、なんだよ、こいつら」 二人のうち一人が言葉を口にした。 先刻、朧埼と呼ばれた少年だった。 少年は右目に眼帯を、肌は露出の少ない服に上着を羽織っているが、所々、肌が見える部分にはあちらこちらに、包帯や絆創膏に湿布が張られていた。 少し逆さだっている銀髪は寝ぐせなのか猫毛なのか、上や横に跳ねている。 翡翠の瞳は突如やってきた輩の登場に驚いて、見開いていた。 「罪人だ。この地に有無を言わさず連れてこられたな」 朧埼の驚きの言葉に朧埼に姉さんと呼ばれた女性が受け答えをした。 朧埼より4つ程度年上に見える二十歳前後の容姿をしている女性。男物の黒いコートを羽織り、長い漆黒な髪は左側よりに三つ網にされて纏められていた。 髪と同じく漆黒な瞳は左目だけで、右目は朧埼と同じく眼帯によって隠されていた。 [*前] | [次#] TOP |