第七話:日鵺の血統 第一の街に到着する頃には彼彼女らは疲れ果てていた。朧埼の治癒術は外傷を治すことは出来ても、体力を戻すことは出来ない。疲労は疲労として蓄積していくだけ。 篝火――正確には朔夜の自宅に辿り着くと、篝火はてきぱきと布団をひく。人数分には足りないが一時休憩する分には問題ないだろう。 榴華は一旦自宅に戻ることにした。第一の街には榴華の自宅もあるから、態々朔夜宅で泊る必要性もない。時間のかかる距離にあるわけでもない。 暫くのんびりした後、栞は朧埼を連れて家を出た。それに炬奈はついていこうとするが、身体が思うように動かない。日々の疲労が限界に近いのだ。朧埼を守る。その意識が強いのかいつも気丈に振舞っていた。 「姉さんは休んでいて」 朧埼はそういって姉に無理しないようにお願いする。姉が倒れて傷つくのは姉だけではない。 「じゃあ俺は残るよ」 篝火は炬奈一人にするわけにもいかず、残ることにした。 「唯乃もちょっと残っていて」 「わかりました」 何か文句の一つでも言われるかと思ったが、唯乃は素直に承諾した。 そうして、朧埼、栞、遊月の三人は目的地へ向かう。 「ネオ。何か興味でもあったの?」 栞が問う。 「……いや、興味はないけれど。栞」 「何?」 「俺が朔夜に黙って罪人の牢獄からいなくなったことを、未だにお前は恨んでいるか?」 栞に聞きたいことがあった。だから同行した。朧埼もいるが、それはどうでも良かった。今聞いておかないと何れタイミングを逃す。そう思って思い切って問う。 答えがわかりきっていると知りながら―― 「うん。裏切られたことは正直ね。俺は別にネオが牢獄からいなくなったことは気にしていない。あの時のネオはそういった選択肢しかなかったって俺は思っているから。でも、俺が許せないのは朔に黙っていなくなったことだよ。なんで――嘘をついた?」 あの時ネオに問うた。朔夜にはネオが罪人の牢獄からいなくなることを、脱出しようとしていることを伝えてあるのかと。あの時あの場所にいたのは遊月と栞だけ。朔夜はその場にいなかった。栞は遊月の脱出を手伝った。けれど朔夜はあの時何も知らずにいた。そして――ネオがいなくなったという結果だけを知った。 「あの時、朔は凄く凄く悲しんだよ。なんで――朔には何も言わなかったの? いや、わかっているよ。朔に黙って出て行った原因なんて。でも――だからこそ、納得できないんだよ」 何処か影を見せる栞に遊月は何も言えなかった。 栞も理解していた。だからこそ、思わずには恨まずにはいられなかった。裏切られたと思わなければいけなかった。栞にとっては。 「わかっているよ。ネオが――朔を悲しませないために朔に真実を伝えなかったってことくらい。でも、残された後の朔だって辛いんだよ。何も知らなかった朔は朔で悲しんだんだ」 「あぁ、わかっている」 遊月は同意する。けれど遊月は其の当時、その選択を選んだ。あえて朔夜には何も知らせないという選択肢を。 「今度は、何も言わないで出ていくことは許さないよ。例えそれが朔を思ってのことだったとしても。一度この罪人の牢獄に姿を現した以上」 「わかっているよ。でも、朔夜を気絶させたのはお前だぞ」 「あははっ。あそこはいいんだよ、あそこにいたら思い出してしまうから」 あの日の出来事を。遊月はこれ以上追及するべきではない、そう判断した。 [*前] | [次#] TOP |