零の旋律 | ナノ

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 気になったのは、その人物が過去罪人の牢獄にいた、ということだった。だが今はそのことに触れるべき時ではないと判断する。もとより、他人の事情であった。

「というわけで泉に情報提供を頼むなら、対価が必要」
「他に何かないのか?」
「…………いや、ないこともないが、泉より性質が悪いのを相手にすることになるから勧めない」

 お前は一体どんな奴らと知り合いなんだよと遊月は心の中で呟く。朧埼はその人物たちを思い浮かべているのだろう、苦笑いしている。

「まぁとりあえずは一旦外に出て準備を整えてから再び此処に来るのがベストだと私は思うがどうだ? 勿論決めるのは遊月お前だがな」
「……わかった。でもいいのか? 俺に協力をしてくれて。お前たちの目的は別にあるだろう?」
「構わないさ。遊月の目的に近づけば近づく程私たちの目的にも辿り着ける。そんな感じがした。ならばその可能性にかけるのもありだ」

 炬奈の言葉に遊月は素直に協力を求めることにした。

「何だか。色々な展開になってきたね」

 その様子を傍目に水渚は髪の毛をいじりながら栞に問いかける。栞は一度笑ってからそうだね、と頷く。

「此処から進めば、彼らは戻れなくなるね」
「戻れなくなるか――、それは俺や君のようにかい?」
「さぁ、どうだろう。すでにネオというのは、此方側の方だと思うけれど」
「……」

 栞は何も答えなかった。ただ寂しそうな瞳で遊月を眺める。


 話がまとまりかけたところで栞が話しかける。

「じゃあ、一旦街に戻ろうか。君たちにとってこれ以上長い間砂の毒に浸っているのは危ないしね」

 砂の毒の存在を忘却していた一同から、否定の声は返ってこなかった。水渚は一緒に行かずに、この場にとどまった。最後まで感情を感じさせないで――感情を押し殺した態度だった。

「第一の街に行こう」

 栞が目的地を決めた。誰も反対はしない。
 栞が第一の街に行きたかったのは他でもない、朧埼に治してもらいたい相手がいるからだ。もう何年も目覚めていない彼を目覚めさせてあげたかった。最後の可能性。この罪人の牢獄で栞が出来ることはやりつくした。もし――彼が目覚めないなら、殺してあげよう。栞はそう思っていた。そう覚悟していた。これ以上、壊れないように、これ以上――傷つかないように。殺せば別の傷をつけることになったとしても。


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