零の旋律 | ナノ

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「その辺は心配ない。私たちとて岐路を持たずにこの地に来ているわけではない」

 そういって炬奈は掌の上に紅い球を浮かべる。術で取り出したのだ。不思議なことにそれは浮かんでいる。

「それは?」
「これは雅契家当主に作ってもらった一度限りだが、空間転位術が使える代物だ。これで私たちは岐路を確保している。雅契当主――カイヤは、空間転位術が使えて大抵の場所になら何処でも出没が出来る。つまりその気になれば罪人の牢獄等カイヤにとっては出入り自由な場所というわけだ」
「成程」

 自身を含めた移動術は、魔術の中でも最高位の難易度とされている。それこそそれが出来るもの等一握りの者たちだけだ。
 だが、雅契家当主なら、不可能ではない。出来ない方がおかしいといっても過言ではないほどに。

「もし、そいつが呼べるなら渡したいものがある」

 篝火がおもむろに切りだした。

「何だ?」
「カイヤってやつに渡して欲しいって頼まれた物があるんだ。二年前――に」

 あの時手渡されたものは今の保管している。色あせることのないそれを。

「そうか、何があったんだかは深くは聞かないが。それは承諾した」
「有難う」
「雅契家当主を呼ぶとしたら、一度国の方に戻る必要があるな。カイヤが一緒なら岐路を気にする必要もないし。……しかし現状では情報が足りないな。玖城も頼るか?」

 遊月の方を見る。決定権は遊月に委ねた。
 玖城、その名を知らないものはいない。――もっとも二年前の朔夜はしらなかったが。

「情報を司る玖城家か、確かに玖城なら知らないモノはないと言われるほどだしなぁ」
「まぁ難点がある」
「なんだ?」
「玖城は、情報料に見合う対価を渡さないと情報は話してくれない。対価以上のことは話さないし。対価以下のことも話さない。対価に対等な分しか情報は提供してくれない。それに他の情報屋の情報料よりそれは高額だ」
「むむぅ……」

 思わず遊月は唸ってしまう。

「その方面は炬奈が何とかならないのですか?」

 唯乃が遊月の代わりに話す。いな、遊月ではないからこそ、聞ける問いであった。

「残念だが無理だな。日鵺家は賊に襲われた関係で決して金銭面に余裕があるわけではないのだ。それに玖城は知り合いだから、とって無償で情報提供してくれるような輩ではない」

 はっきりと断定をする炬奈に、榴華はある人物を思い出して苦笑する。

「なんやそれ、まるで泉さんそっくりやな」
「……あぁ、そうか。まぁいいか。そっくりも何も、本人だぞ?」
「はぃ?」

 目が点になるとはこういうことを言うのか、と炬奈はマジマジと思う。榴華はいきなりのことに目をぱちぱちしながら思考が停止すること数秒。

「はいぃぃぃ!?」

 今度は驚愕の声を上げる。

「そんな驚くなよ。泉の本名は玖城泉だ。その泉をお前らは知っているんだろ? ならあいつがどういった性格かってことくらいわかっているだろう」
「……ほんまにだったんか……。まぁそれなら、泉さんの情報能力の異常さとか納得やわ。それに泉さんなら知り合いとかそんなんでは協力してくれんわなぁ」

 泉を知らない遊月も話を聞く限り、協力をしてくれる可能性は薄いなと判断する。


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