零の旋律 | ナノ

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「確かに雛罌粟は結界の解除なら可能かもしれない。けれどそれは同時に幻影――幻術にも触れることになる。触れたら雛罌粟とはいえ、精神が死なない可能性は零じゃない。そうなったら、結界を解除出来る可能性のある唯一の存在がいなくなる」

 残る問題は幻影を解けるもの――もしくは幻影の効果がないものが先に解除しなければならない。

「ってなるとーん、あれ頼らなぁいかんよ?」

 誰、とは言わなくても痛いほど理解出来る。

「あいつは絶対に俺たちに力は貸してくれないだろう」
「だよねーん。むしろ自分は自分ら二人の始末を頼まれている側ですし」

 呑気そうに答える榴華だったが、他の面々にとって、それは疑問の残っていることだった。始末を頼まれているのは最初からわかっていた。なのにどうしてここまで一緒に、それも殺す気配を見せずに行動を共にし、あまつさえ協力をしているのかが、理解出来なかった。
 榴華の言動は突飛なものが多いがそれはその中でも飛びぬけているものでもあった。
 罪人の牢獄に脅威を運ぶ可能性のあるものを態々生かしておく必要性は何処にもない。ましてや手助けすることもない。罪人の牢獄最強の戦闘能力保持者と謳われる榴華にとって大抵の敵は敵にすらならないのだから。

「……くそっ一体どうすりゃいいんだよ」

 悪態をつかずにはいられない。

「主……」

 唯乃はただ主を見守っていることしか出来ない。

「此処に長居していても何も状況は変わらないだろう。一度外に出てはどうだ?」

 変らない状況の中、炬奈が提案する。それもそうだと一同は一度外に出る。場所は此処にあるとわかった。あんな設備怱々何処にでも移動できるわけがない。
 あのまま立ち往生するよりはまだ広さのあり、結界と幻影の危険のない外の方が幾分もましだ。
 外に出ると未だに水渚はいた。けれどやはり此方の興味を抱いている素振りは一切ない。
 ただ、あぁ生きていたんだ。その程度の感想しか水渚は抱かなかっただろう。

「で、探し物は見つかった?」

 水渚が抑揚のない声で問いかける。何処かぶっきらぼうでもあった。

「探し物目前までは行けたのだが、そこから先は進めなかった」
「ふーん、そうなんだ。私は態々あんな魔境に足を運んで冒険しようとは思わないから、何があるのかは知らないけれど」
「魔境だってことは知っているんだ」
「まぁね。その程度のことは知らないと、先に進まないと考えるわけがないよ」

 つまりそれは、ここの危険性を知っているから、危険を回避するための手段ということ。


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