V 「……ちょっといい」 栞が真っ黒の短剣を投げる。けれどそれは結界を前にして、消し去った。 「……。此処は通れないってことだね」 攻撃すら通じない。触れずに攻撃してもその攻撃は結界の力で消滅してしまう。もしこの結界と幻影を同時に解こうとなるとかなり高度な技術を持った、それこそ最高位クラスの術者が必要不可欠になるだろう。 「力技、つまり自分の紫電とかでやっても無理やろか?」 罪人の牢獄最強の戦闘能力を持っている榴華の攻撃威力は絶大。だからこそ榴華は問いかける。栞は殺戮能力が高いだけで、別に攻撃力が高いわけではない。 「いや、多分無理だろう」 遊月は首を横に振る。顔色が曇っている。目的に近づけたのに、その目的が目の前に存在して、それなのに何もすることが出来ないからだ。手に入れる手段がない。力がない。方法がない。落胆の色はどうやったって隠せるものではなかった。 「此処まできて。此処で行き止まりをくらうのか?」 誰に問いかけるわけではなく自問自答する。その様子に唯乃は主に掛けてあげる言葉が見つからない。 「姉さん。どうする」 「……強行突破が不可能となると――可能性は一つしかないだろう」 朧埼はその時、懸念と怪訝と嫌悪が合わさった表情を見せる。 「でも……」 「あいつらに頼めば何とかなるかも知れない。となると頼むしかないだろう」 彼らの手を借りるのは炬奈自身も気は進まなかった。けれどこの先に何かある。炬奈と朧埼はそう確信した。恐らく。遊月達の目的と、炬奈と朧埼の目的は近い場所にある。 しかし現状これ以上自分たちではどうしようもなかった。手詰まり。 「……術に特化しているなら、水渚とか、雛罌粟、紅於付近はどうなんだ?」 榴華の力任せの技じゃなく、その方面に特化している人ならば破ることが出来ないのか、篝火は提案する。 「紅於ちゃんや、水渚っちは多分無理やろ。可能性が一番高いんは、ヒナちゃんやな」 「まぁ水渚は攻撃系の術メインだしね。雛罌粟は防御、結界術にたけた存在だから、可能性的には雛罌粟が高い気が俺もするね」 栞も榴華の言葉に同意した。術の系統の違い。第二の街支配者雛罌粟は結界術にたけ、その方面においては罪人の牢獄ないで右に出るものはいないと言われる程だ。 紅於は第三の街支配者。呪術系統の術を得意としている此方も術者ではあったが。 「ヒナちゃんを呼ぶん?」 榴華が遊月の方を見る。遊月はしばし思案していた。榴華、紅於等この街の罪人の大半を知らなくても遊月は雛罌粟のことは知っていた。それほど昔から雛罌粟はこの罪人の牢獄の、そして第二の街の支配者として君臨し続けているということ。 それは恐らく銀髪を除けばこの罪人の牢獄で最長といってもいい程だろう。歴史上含めて。 [*前] | [次#] TOP |